昼寝の理由


ナニワアームズ商藩国第1階層<居住区>
12の吹き抜けから陽光が差し込む風景が珍しい砂漠の地下都市である。
そんな地下都市の片隅にある行政庁から一匹の猫、では無く猫士であるナニワ猫が黄色いジャケットを羽織って意気揚々を出てくる所であった。
彼の名は疾風丸。ナニワアームズ空軍所属パイロットの藩国勤務猫士である彼は丁度、訓練成果であるフライトレコードを行政庁に無事届け終わった所である。
(ふふん♪今日はこれでお仕事は終わりだにゃー。折角ここまで来たんだし、寄り道しても罰は当たらないにゃ?)
と遊ぶ気満々、好奇心旺盛に珍しいものを探してキョロキョロしながら地下街をしなやかに駆け巡る。
暫く気儘に駆けていると何処からともなく香ばしい焼き魚の匂いを察知した疾風丸は速度を上げてその名の如く疾風の様にまっしぐら。
辿り着いたそこは商業区の一角にある屋台で営業中の定食屋さんであった。
そこでは塩焼きの熱々の焼き魚を美味そうに頬張る褐色に銀髪という典型的な西国人である同僚がいたのであった。
目を輝かせて物欲しそうに焼き魚を眺めている疾風丸に気付いたパイロットの青年は苦笑を浮かべて店主に焼き魚を追加注文しながら声をかけた。
「よう、疾風丸。イエロージャケットを着ているって事は仕事帰りか?」
「そうだにゃー。今日のミッションはコンプリートだにゃ」
へい、お待ちと店主が持ってきた焼き魚をほいと疾風丸に渡すジロウ。
「ほー、それはお疲れさん。ほれ、俺の奢りだ」
にゃーんと、嬉しそうに焼き魚を頬張る始める疾風丸。香ばしい風味に適度な塩加減、オヤジなかなかだにゃ。と感心しながら目を細めて堪能する。
「しかしお前、この辺りって始めてじゃないのか?羽を伸ばすのは良いけど、迷子にならないように気をつけろよ」
「ふふ。この疾風丸、そんなお間抜けじゃにゃいにゃ~」
口周りを舌でペロリと舐めて自信満々にそう言い返した。

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焼き魚を食べて腹を満たした疾風丸はジロウと別れ、再び探索を再開。
辺りに立ち並ぶフリーマーケットや屋台を興味深げに覗き込みながら気の向くまま、風の向くままに店から店へと渡り歩く。
好奇心を満足させながら歩いていると商店街の外れで幼い少女が一人でポツンと立ちすくんでいるのが目に入った。
良く目を凝らしてみると頭の左右を結んだツインテールが力無く垂れ下がり、大きくクリっとした瞳は大粒の涙を湛えて今にも泣き出しそうな様子ではないか!
ビックリした疾風丸は慌てて少女の足元に駆け付けると見上げて声をかけた。
「ど、どうしたんだにゃ~?」
「ね、ネコさんが喋った?」
突然現れたイエロージャケットを羽織ったナニワ猫に一瞬、目を丸くした少女だったが、緊張の糸が切れたのか次の瞬間には堪えていた涙が溢れだし、疾風丸に抱きつくようにしがみついてわんわん泣きだした。
眼を白黒させながらも暫くは声をかけ続けて、何とか少女を落ち着かせた疾風丸が事情を聞くと何でも一緒に買い出しに来ていた両親とはぐれてしまったらしい。
「う、ママ、パパ」と話しているうちに再び寂しさが込み上げてきた少女。
ここはボクが何とかしなくてはナニワ猫の名が廃ると奮起した疾風丸は、後ろ足で立ち上がると前足で自分の胸を叩きながら
「ふむ。ボクに任せるにゃ。一緒にパパとママを探してあげるから元気出すんだにゃ~」と請け負った。
その仕草に励まされたのか、泣き出しそうだった少女の表情が晴れやかに明るくなった。
「うん。ありがとうネコさん!」と再び小さな勇士をハグするのであった。

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まずは少女と一緒に人々が集う商店街に戻った疾風丸。
丁度、午後の昼下がりだけあって中々の混雑ぶりである。
「でもこんなにいっぱい人がいるにどうやってパパとママを探すの?」
「ふふん。こう見えてもボクはナニワアームズ航空軍のパイロットだにゃ。偵察のノウハウはばっちりにゃ」
というが早いか、手近な屋台の柱をするすると駆けのぼり、見晴らしの良い屋根の上に仁王立ち。
(子供とはぐれたんだから、きっと両親は心配して必死に探しまわっているはずにゃ。慌てている人をピックアップしていけば数は絞れるハズにゃ)
少女が言っていた両親の特徴を思い出しながら、辺りに目を凝らす。
(ビンゴ!いたんだニャー)
屋台の屋根から軽やかに少女の元に降り立つと少女の手を引いて駆けだした。

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無事、両親と再開を果たした少女に右前足を振って別れた疾風丸は前にも増して上機嫌で散策を再開した。
それから2時間後、ようやく好奇心を満たし終えた疾風丸はそろそろ帰るかと来た道を戻ろうとして…その道がどれだったか分からない事に遅まきながらに気が付いたのであった。
しかしそこは迷子になってもナニワ猫。ちょっとやそっとではパニックにはならないのである。
どうするか思案しながら歩いていると前方に気持ち良さそうに眠っている怪獣さんを発見。
ボクも一休みしてからどうするか考えるかニャー。

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