とりあえず投下してみます。
#周囲に認められるとか称えられるとか、・・と云うのとはかなり関連のない感じになりましたので、
#イメージ違いましたら省いて下さい。
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祈り
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「騎士? 誰かに仕えているのか?」
私は雇っているつもりなぞないからな、と女は眉を吊り上げてその者の瞳をねめつける。
「もしも」
その者は、女を宥めるように微笑むと言う。
「もしも私が何かに仕えているとするならば、それはたぶん、正義と慈悲だろう」
「あなたの神のことか?」
首を傾げる女に、その者は首を振る。
「いいや、おそらくは違う」
「私の神はただ、この身を赦すだけだろう」
「・・慈悲と正義、双方が同じ道を示す時は、自分は力を尽くすのみだ」
「だが2つが違う道を示す時、私はいつもひどく迷う」
「慈悲と正義は。 時に私を切り裂く刃のようだ」
「すべての者が悲しまねば良いと思う。
護りたいと願う。
自分の腕がもっと広ければと、腑甲斐なく思う。 ・・・だが、自分にできるのはがむしゃらに戦うことだけだった」
「いつも思うのだ。私の取ってきた道は、果たしてどれだけ正しかったのかと。やれるべき事が、もっと他にもあったのではないかと」
乾いた風をはらみ、ひるがえる頭布。
護るためにしか抜かぬと決めた、腰に帯びた半月の剣に触れる。
「・・そうやって、迷い苦しんだことを、私の神はご存知だ。ゆえに、私はいまだ裁かれずここに在る」
「あなたはいつも正しいぞ。 それに文句をつけるならば、私があなたの神に文句を言う。”ならば自分でやってみろ”と」
むくれて口を尖らせる様に苦笑して、遠く広がる砂丘に目を移す。
果てのない問いは、まるでこの地の砂粒を数えるが如くのようでもある。
「道は、見つかるか?」
その声に、振り返らず顔を上げて笑ってみせる。
遠く、遠く遥かな彼方を見据え。
「さて? ・・今もまだ。迷ってもなお、迷うが故に、ただ、進まねばならぬのだろう」
「一歩でも<それ>に近づくために」
聞こえるものと云えば、風に流れる砂の音と、そして己の鼓動。
何もないと見える世界で、ふいに空気が動いた。
「・・・・では、私は祈ろう。よい風が、いつもあなたの背を押すようにと」
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#元ネタはアイルランドの古い祝福の言葉から。
「道がつねにあなたの前にありますように。
風がいつもあなたの背中を押してくれますように。
太陽があなたの顔を暖かく照らし、
雨があなたの畑にやさしく降り注ぎますように。
そしてふたたび会う日まで、
神様がその手のひらで、あなたをやさしく包んでくださいますように。」