衣服向けの高級素材の開発に奮闘する人々のお話(SS)を下記のような感じで民間企業を舞台にしてみようかなーと考えてたりします。
(民間企業は国内需要向けの安価で丈夫なアパレル素材を安定して出荷していた国内では1,2のシェアを誇る企業で高級素材の需要増加に合わせて本格的に参入を検討しているという感じです。)
一応、方向性的には天然繊維の方になる予定です。
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思い出
それは私がまだ幼い頃の思い出。
母方のひいばあちゃんの嫁入り道具であったそれは、灯火の淡い光に照らされて滑らかな光沢を帯びて波打ちながらどこまでも広がっていた。
その目の冴えるような色鮮やかな色彩を持つ布地はまるで極彩色の海原のように私の視界一杯に広がり、手に取るとサラリとした手触りを残して流れた。
当時の私にとっては、その布地は光輝く宝石にも決して負けない素晴らしい宝物に見えた。
そして心に灯った布地への憧憬の灯火は月日が流れ、年を重ねながら工業を学び、成人した後も消える事は無かった…。
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辞令
今日も敷地内の紡績工場は元気に稼働してどんどん搬入される原材料を糸や生地に作り替えて続々と出荷している。
その様を幸せそうに窓から眺めていたルッツの耳に飛び込んで来たのは上司のどなり声だった。
「笹原君、笹原ルッツくん、おーい、ル〜ッツ!こら!聞いているのか、ルッツ!!」
最後の怒声に驚いて我に返ったルッツは目を白黒させながらも
「は、はい。すみません!何かご用でしょうか?」
眉間を揉み解しながらもルッツの上司は彼にこう告げた。
「全く仕方が無い奴だな…。まあそれは兎も角、君には本日付でクリス嬢と一緒に新しい企画に参加してもらう。」
「わっかりました!…えーっとそれでその企画って言うのは?」
「うん。ある意味、繊維にお熱な君にまさにぴったりな企画でな。我が社の新しい主力商品となり得る高級素材を作る為のプロジェクトだ。」
「な、何と!?わっかりました!その仕事、粉骨砕身の決意で挑ませて貰います。」
目に真っ赤に燃える炎が見えるような気勢でルッツは息を巻きながらそう宣言した。
「まあ君なら迷う事無くそう言うとは思ったけどね。うん。クリス嬢は経験豊富なベテラン社員だから、キチンと話を良く聞いて仕事に励んでくれ。」
そう言いながら心の中でちょっぴりクリスに同情する上司であった。
彼女にも良く効く胃薬を教えておこうかな…。
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