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ナニワ作戦会議BBS
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  [No.1545] 途中経過報告3(一先ず草稿は完了) 投稿者:蘭堂 風光  投稿日:2010/09/20(Mon) 12:24:45

当初考えていたお話から大分ズレてしまった気もするけど、取り敢えずはこれで一旦草稿は完成です。
後は暫く時間をおいてから見直して、修正したものが決定稿になる予定です。

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思い出

それは私がまだ幼い頃の思い出。
母方のひいばあちゃんの嫁入り道具であったそれは、灯火の淡い光に照らされて滑らかな光沢を帯びて波打ちながらどこまでも広がっていた。
その目の冴えるような色鮮やかな色彩を持つ布地はまるで極彩色の海原のように私の視界一杯に広がり、手に取るとサラリとした手触りを残して流れた。
当時の私にとっては、その布地は光輝く宝石にも決して負けない素晴らしい宝物に見えた。
そして心に灯った布地への憧憬の灯火は月日が流れ、年を重ねながら工業を学び、成人した後も消える事は無かった…。

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辞令

今日も敷地内の紡績工場は元気に稼働しており、どんどん搬入される原材料を糸や生地に作り替えて続々と出荷している。

その様を幸せそうに窓から眺めていたルッツの耳に飛び込んで来たのは上司のどなり声だった。

「笹原君、笹原ルッツくん、おーい、ル〜ッツ!こら!聞いているのか、ルッツ!!」

最後の怒声に驚いて我に返ったルッツは目を白黒させながらも反射的に返事をした。

「は、はい。すみません!何かご用でしょうか?」

眉間を揉み解しながらもルッツの上司は彼にこう告げた。
「全く仕方が無い奴だな…。まあそれは兎も角、君には本日付でクリス嬢と一緒に新しい企画に参加してもらう」

「わっかりました!…えーっとそれでその企画って言うのは?」

「うん。ある意味、繊維に夢中な君にまさにぴったりな企画でな。我が社の新しい主力商品となり得る高級素材を作る為のプロジェクトだ」

「な、何と!?わっかりました!その仕事、粉骨砕身の決意で挑ませて貰います」
目に真っ赤に燃える炎が見えるような気勢でルッツは息を巻きながらそう宣言した。

「まあ君なら迷う事無くそう言うとは思ったけどね。うん。クリス嬢は経験豊富なベテラン社員だから、キチンと話を良く聞いて仕事に励んでくれ」
そう言いながら心の中でちょっぴりクリスに同情する上司であった。

彼女にも良く効く胃薬を教えておこうかな…。


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ルーキーと先輩

タタタッ、タタッ、タタタッ
軽快なタイピング音が響き、ピシッとスーツを着込んだ女性が滑らかな所作でキーボードに次々と文章を打ち込んでいく。

そこにドアをノックする音がしたかと思うと勢い良くドアが開かれた。
「失礼します。本日付で本部署に配属となった笹原ルッツです。よろしくお願いします!!」

スーツの女性こと藤宮クリスは手を止めると席を立ってルッツを出迎えた。
「ああ、話は聞いているわ。君が笹原君ね。こちらこそよろしく。さ、こっちの席に座って」

勧められるままに席に付いたルッツは早速勢い込んで口を開いた。
「それで何をしましょうか。まずは企画書でしょうか。それとも会議とか、人員集めとかですか。」
「ちょ、ちょっとストープ!一度にそんなに答えられないわよ。落ちつきなさい」
「は、はい。すみません」
怒涛の勢いで放たれる質問の数々を片手を挙げてストップさせるクリス嬢。
「しかしえらく張り切ってるわねえ。」
「それは勿論。何と言っても入社してから早2年、ようやく任された大仕事ですからね!」
なるほど、熱意は合格ねとクリス嬢。
「じゃあまず君に直ぐに仕事を任せられるかどうか、軽くテストしましょうか。そうね、今回の目標である高級素材とは何かを簡潔に説明してみて」
「うぐっ!?えっと、た、高くて綺麗でそれから…(もごもご)」
「はい、不合格!駄目ねえ、これから自分がやる事なんだからそこは直ぐに答えないと勉強不足よ」
想定外の質問に目を白黒させて口ごもるルッツとその様子を見てバッサリとNGを出すクリス。
「では笹原君は本企画に取り掛かる前にまずはこれを読んでしっかりと基礎を身に付ける事」
とクリスが示した先にはどっさりと積まれた関連書籍の山が鎮座していた。
「うう…、わっかりました〜」
とほほと眉を八の字に下げて答えるルッツであった。

そして二日後

ダッダッダッ。バー―ン
「クリス先輩、言われた通り資料を読破しました!」
勢い良く部屋に駆け込んで開口一番にルッツは自信満々でそう宣言した。
えっ、もう?と少し意外そうに目を丸くするクリス。
「はい!まっかせて下さい。バッチリです」
うーんと軽く考える素振りの後、クリスは再び問題を告げた。
「では再テスト。高級素材とは?」

「はい。細く長い高品質の繊維原料を用いてより細く、均一な太さになるように作られた糸や布地等のアパレル素材の事です」
「天然繊維はその数の希少さから、化学繊維の場合は生成や取扱に高度な技術を要求される事から繊維の太さが細いものほどその価値は高く評価されています」
「またそうした細い糸で作られた素材から出来た衣服は風合いが良く、これらの事から細い繊維からなるアパレル素材は高級素材として重宝されています」

「うーん。本当はもう少し簡潔にまとめれると良いんだけど、まあ及第点かな」
クリスの評価を聞いて、ルッツが小さくガッツポーズと取っていると

コンコンと軽いノック音と共に
「毎度ー、クリス居る〜?この間頼まれてた見積もりできたでー」
右手にソロバンと茶封筒を持って、大きなまん丸眼鏡とくりっとした大きな目が印象的な小柄な女性が入ってきた。
そして、はいこれとクリスに茶封筒を手渡す。

「流石はマリカ、仕事が早いわね。あ、笹原君、彼女は鈴音マリカ。うちの会計担当のスペシャリストよ」
とザッと封筒の中身を確認しながら満足げに頷きつつ、マリカを紹介するクリス。

「おー、君が先日配属されてきたルーキー君やね。あ、うちの事はマリカでええよ。どう、頑張ってる?」
「バッチリですよ、マリカ先輩。さっきもクリス先輩から及第点を貰った所です」
「ほほう。クリスから及第点を取ったんなら大したもんや、感心感心」

そんなやりとりをしていたマリカに書類を読み終わったクリスが声をかける。
「前回よりも見積金額が上がってるみたいね、経過は順調ってところかしら?」
「そうなんよ。品質は全体的に前回よりも上やね」
とマリカ。
そのやりとりに小首を傾げているルッツに気が付いたクリスが概要を説明し始める。
「我が社では今、高級素材の第一弾として幾つかの契約農家に声をかけてリンネの原材料となる亜麻の栽培を促進しているのよ」
「品質に関わらずに必ず亜麻を買い取るという最低限の保証と共にさらに品質に応じた値段でより高額で買い取るとしているわけやねん」
「亜麻の栽培技術を底上げする為の支援施策的な意味合いが強いけど、品質が悪い亜麻でもリンネの製造研究に使えるから積極的に推奨しているのよ」
「うちの会社も今まではコットンとかが主力商品やったからねえ。亜麻を用いた紡績や織物の技術研究も必要と言う訳や」
とクリスとマリカの説明を聞き、やっと得心が言ったルッツは
「なるほど、それで見積金額の向上=亜麻の品質向上に繋がる訳ですね」
と相槌を打つ。

「そういうこと。あ、そうだ」
何かを思い付いたらしいクリスは早速、携帯電話で何処かへと連絡を取り、約束を取り付けると携帯を閉じた。

「これで良し。さて笹原君、早速出かけるから準備してね」
「は、はい〜」

と慌ただしく準備を済ませて出掛ける2人と行ってらっしゃーいとそれを見送るマリカ。

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決意よ響け〜始めの一歩〜

クリスに連れられてルッツが辿り着いた所は地下階層の吹き抜け直下の亜麻畑。
腰の高さの一年草が視界一面に緑の絨毯となって広がる見晴らしの良い風景に、
ポツンと所在無げに幅広なトラクターが佇んでいた。
その側では素朴な雰囲気の農家のおじさんが思案顔でトラクターとにらめっこしていた。

「お久しぶりです、田中さん。どうしました?」
クリスが農家のおじさんに尋ねると
「おお、こんにちは、クリスさん。いやーそれが作業途中でトラクターが動かなくなってしまってね」
いやはや参ったよと田中さん。
「すいません、ちょっと見せて貰って良いですか?」
何処からともなくマイスパナを取り出して腕捲りをはじめるルッツ
「君は?」
「あ、彼は弊社の新人の笹原です」とクリスが軽く紹介
「ああ、今朝言っていた新人の。見るのは別に構わんが…」
「大丈夫なの?」
「ええ、まっかせて下さい。こう見えても整備士免許持ってるんですから」
そう言うとルッツはいそいそとトラクターに向き合い、早速作業に取り掛かった。

30分後
「これで良し」とトラクターのカバーを閉めると額ににじんだ汗を軽く拭ってルッツは顔を上げた。
「さ、これでいける筈です。田中さん、ちょっと動かしてみて下さい」
ルッツに促されてトラクターを動かすと軽快な動作音と共に前進を再開し、順調に亜麻を刈り入れ始める。
「おお、動いた動いた。いやー大したもんだ」
「本当ね、人間誰しも1つは得意な事があるものねえ」
心底意外そうに感心するクリス。
「心外だなあ。工業学校を出てるんだから、このくらいなら朝飯前ですって」
「でも本当に助かったよ。ありがとうねえ、さあさあじゃがバターでもお食べ」
口を尖らせながらぼやくルッツに田中さんの奥さんが差し入れを持ってきたじゃがバターを渡す。
ほのかに甘みを帯びたバターの香りがルッツの鼻孔をくすぐり、早速パクリと一口食べる。
程良く馴染んだバターの塩味とほこほこのじゃがいもが絶妙のハーモニーを奏でる。
ハフハフと美味しそうに頬張っているとルッツの機嫌は立ち所にコロッと良くなり、ニッコリと満面の笑みを浮かべる。

「しかし頼もしい助っ人が来てくれて良かったわね、あんた」
「全くだな、これで今季の収穫の人手不足も解消だ」
と田中夫妻。
ハヒ?とじゃがバターを頬張りながら、やっぱり話が見えないルッツは頭上にクエスチョンマークを浮かべて小首を傾げる。
「ああ、突発だけど笹原君には今日から約1ヶ月間、こちらの田中さんの所で収穫のお手伝いをして貰うから」
ニッコリと良い笑顔のクリス。
「ええ!?本当に唐突なんですが、クリス先輩(汗」
「まあまあ思い立ったが吉日と言うでしょ。丁度、収穫シーズンだったし。但し、これはうちで行うプロジェクトとしても重要な事よ?」
「重要…ですか?」
「ええ。今はまだ試験的な段階だけど、今後本格的に亜麻の栽培が始まれば収穫量が跳ね上がって恐らく古くからの手作業ではとても追いつかないのよ」
「実際、それで笹原君に手伝って貰うわけだけど」
「は、はあ」微妙な表情で相槌を打つルッツ。
「うーん。ピンとこないかな?つまり何時かは収穫した亜麻を出荷できる状態まで持って行く為のシステム化が必要になってくるって事」
「そしてそのときには現場での経験が必ず役立つはずよ」
「え、それってひょっとして?」
眼で問いかけるルッツにクリスが頷きを返す。
「その通り!システム化の際には笹原君に主力メンバーとして頑張って貰う事になるわ」
「おお!なるほど、そういう事なら万事了解です」
見る見る元気になったルッツは全身の元気を声に込めて決意表明
「不肖、このルッツに万事、まっっっっかせて下さい!!」

辺りに響けとばかりに地下に元気に響くルーキーの声
天井の吹き抜けを通り抜けてきた一陣の涼風がその声を拾い上げ
視界の果てまで続く亜麻の緑の海原を撫でながら何処までも吹き抜けて行った。


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