お魚大好き!


「にゃっ!」
「にゃにゃっ!」
「にゃ、にゃ、にゃぁー!?」
「ハッハッハ、ドウヤラ逃ガシテシマッタヨウデスネー。」

猫士さんが皆がっくりとうな垂れます。
が、そのうな垂れっぷりは半端ではありません。
うな垂れる所か、地面にまでめり込んでいきそうな雰囲気です。

「ドウニモ今日ハ、調子ガ悪イデスネ~?」

ここはナニワアームズ第1階層、地底湖に面した漁港の埠頭です。
埠頭の端で湖面に釣り糸を垂らす男が一人。
筋肉質を通り過ぎてムキムキでマッチョな肉体。
よく手入れされた立派な口ひげ。
そして顔の両サイドに来るように整えられた、ドリル状の縦ロール。
ナニワアームズきっての匠、思考する筋肉ことホードー氏です。

そして周囲にうなだれる猫士が三名。
国付きの猫士、ソール、アルテと王猫のトラさんです。
お魚食べたいにゃー、と釣りに出かけるホードー氏に付いてきたのです。
しかしながら釣果はまったく上がっていない様で。

「ソウイエバ、他ノ釣リ人モ姿ガ見エナイデスネー?」

ナニワ港の埠頭はナニワでは気軽に足を運べる釣りスポットです。
そのため、普段から釣り人や釣り猫でそこそこの賑わいを見せています。
ですが今日はその姿が見えません。
ウーム、と首を捻りつつ再び糸をたらします。
ホードー氏自身は気分転換も兼ねてるので、釣れなくても別に構わないのです。
しかし、それでは一緒に来てくれたトラさん達になんとなく悪い気がします。
トラさん達はすっかり不貞腐れてしまいました。
釣竿を放り出し、ちょっと離れた吹き抜けの近くでごろんちょしています。

さてさて、どうした物か?、と考えたときです。
ノシノシとちょっと重たい足音と、カラカラと回る車輪の音が聞こえました。
音の聞こえた方に目をやってみれば、其方には荷物を積んだ荷車とそれを引く怪獣さんが居ます。
その音はどんどん此方に近づいてきて、ホードー氏の近くで止まりました。
ちょっと上の方から声がかけられます。

「いやぁー、今は釣れないでしょう。・・・釣れますか?」

どうやら荷車に人が乗っていたようです。
顔を其方に向けると、荷車から上半身を乗り出すようにしている人が1名。
整備士のつなぎを着ているということは、整備士なのでしょう。
すると、怪獣さんからも声が掛かります。

「こんな時に釣りとは奇矯なやっちゃなー。」

どうやら、今は釣れないという事が分かっているようです。
疑問が思わず表情に出てしまったようで。
整備士さんが得心したような表情を作り、声をかけて来ます。

「ああ、連絡漏れかなー? 立ち入り禁止とかみたいな分かりやすい状況じゃないしね。」
「あー、そゆ事か。そりゃ、しゃーないの。」
「知らないと分かりにくいよね、港は普通に操業してるし。」
「申シ訳有リマセンガ、事情ヲ説明シテ頂イタダケマセンカー?」

取り合えず、事情を知っていそうなので説明を求めます。
と、不貞寝していた猫士たちもこの闖入者の言葉が聞こえていたのでしょう。
身体を起こして、こちらに向かってきます。

「あれよ、今ここな、整備点検と補修中なんよ。」
「そうそう、釣りシーズン前に終らそうってことで。」
「で、水中作業も入っとるしな。魚も逃げ出しとんのやろ。」

この話を聞いた猫士さん達、なんとも複雑な表情を浮かべています。
今釣れないのは・・・でもシーズンが・・・うにゃー! と、心の声が聞こえてきそうです。

それはナニワの港が最も賑わう、魚が良く釣れる季節のこと。
その時期になると、人々は手ずから釣った魚を日頃の感謝を込めて猫士さんに振舞うのです。
普段は釣りをしない人達まで港に集まり、入れ替わり立ち代り釣り人の途絶える日は無いと言います。
また釣果を持ち帰るだけでなくその場で調理して他の釣り人や猫士さんに振舞ったりと、休日ともなれば一寸したお祭り状態になります。
最近では怪獣さんもその賑わいに加わる様になり、ひときわ賑わっているようです。

「シーズン中に水中作業のせいで魚がつれんとか、笑えんしなー。」
「ソレハ、ソノ通リデスネー。アノ賑ワイハアノ時期ダケノ物デスカラ。」
「にゃんにゃー、にゃ・・・。」
「まぁ、港の作業が終るまでは余り釣果は期待できないかなー。」
「残念デスガ、今日ノ所ハ引キ上ゲルトシマショウ。」
「なーおぅ・・・。」

シーズンは楽しみですが、今日の釣果がないのは別の話。
トラさん達はやっぱりガックシです。
そこでホードー氏、ちょっと考えていた代案を示します。

「港ハ暫ク釣レナサソウデスカラ、一寸足ヲ伸バシテ海釣リニ行キマショウカ。」

その言葉を聞いて、ピクリと反応する猫士さんたち。
そうですナニワ港以外に、地上部には海もあるのです。
少々遠いため港のように気軽に足は運べませんが、一部の釣り好きは結構訪れているようです。

「今日コレカラトハ行キマセンガ・・・ソウデスネー、真輝サン二輸送車デモ出シテ貰ウトシマショーカ。」

にゃーん! とテンションの上がる猫士達を尻目に微妙な表情をしているトラさん。
また車止まったりしないよね? という不安を抱きつつも海の魚への期待はいっぱいです。
はてさて、その海釣りがトラブル無く進むかどうか、それはまた別のお話。