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ナニワ作戦会議BBS
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  [No.1679] 設定文+SSの決定稿 投稿者:蘭堂 風光  投稿日:2010/12/30(Thu) 12:08:21
設定文+SSの決定稿 (画像サイズ: 494×305 22kB)

一通り見直して誤字脱字も無さそうだったので
取り敢えずロードランナーの設定文とSSの決定稿をまとめておきます。
#要点や周辺環境も大体は押さえているはずです。

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偵察とは敵や相手の様子をこっそり探る事である。
そして偵察には一般的な偵察である先行偵察と戦闘後の地域を調査する戦果確認の2種類がある。
余り聞き慣れない戦果確認とは具体的に言うと爆撃や砲撃を加えた地域が実際にどのような影響を受けているか、
誤爆は無かったか等を現地にいって調査し、記録を取る仕事である。
しかし戦果確認についてはこれまでクローズアップされる事は余りなく、
自他共に認める偵察の国であるナニワアームズ商藩国でもFOが兼任で行っていたに過ぎなかった。

そんなある日、日々手強くなってくる敵勢力から国民・国土を守る為に他の藩国同様、ナニワアームズ商藩国でも戦力の増強が計画された。
計画の骨子はパイロット職と歩兵職の2本柱を主軸とし、お互いに得手不得手をフォローするというものである。
というのも、評価値が高く主力となり得るI=D部隊では治安維持や市街戦、長期間に渡る国土や国民の防衛には不向きであり、
また機械なので当然ながら低物理域では活動する事すら叶わない為である。

そして役割分担は偵察についても同様に検討される事になった、つまり先行偵察と戦果確認である。
先行偵察についてはパイロットの中から、偵察に特化した選抜チームが組まれ、これにあたる予定であるが、
乗り物での偵察が主体となるので当然ながら細かい調査が必要となる戦果確認は実質不可能と言える。
そこで今回、新たに戦果確認を専門とする歩兵職業として白羽の矢が立ったのがロードランナーである。

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ロードランナーとは
 歩兵部隊の最小単位である班レベルで動く部隊であり、
 爆撃や砲撃を行った後の地域の状態を見る戦果確認を主任務とする。
 乗り物には乗らずに自前の足で奥地までいって、そこで得た情報を記録し、持ち帰る事が役目。
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ナニワアームズ商藩国におけるロードランナーが守るべき鉄則は2つある。
1つは現地まで赴き、そして生還する事。幾ら情報収集が上手くてもそれを本隊に持ち帰れなくては意味が無いのである。
情報を伝達するだけなら世の中には無線機という便利な文明の利器は確かに存在する訳だが、
ナニワにおいてはなるべく低物理域でもある程度の活動が行える事が求められるので結局の所、生還できる事が必須事項である点は揺るがない。
そして2つ目は現地での情報をしっかりと記録してこれを持ち帰る事。言うまでも無く偵察兵の本分である。

この2つの鉄則を守れる実力をロードランナーに習得させる為に次の4つの能力が重視された。
1.走る
2.視る
3.隠れる
4.戦う

以降はこれら4つの能力に焦点を当てて、ナニワアームズ商藩国におけるロードランナーを見てみよう。

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#これは左上の四角形に入れる文字を想定しています。

1.走る

ロードランナーを特徴付ける性質の1つが走る事に特化しているという点である。
これはロードランナーの主任務である戦果確認と密接に関係している。

戦果確認は敵地への爆撃や砲撃の成果を確認する為に自軍が完全には制圧できていない地域で偵察を行う事になる。
その為、情報収集が目的の軍事行動である以上、敵の残存勢力が潜んでいる可能性を想定し、なるべく交戦を避けて秘密裏に行う必要がある。
そこで大火力よりも寧ろ痕跡を残さない移動手段が必要とされ、結果として車両を用いない徒歩での機動力に特化した部隊としてロードランナーが登場する事となった。

しかしここに1つの問題点があった。
一般の歩兵にとっても徒歩は基本的な能力である為に基礎訓練は十分に行われており、差別化を図る為に単純にそれらを上回る負荷を与える訓練を行う事は身体への悪影響が懸念されたのである。
そこでナニワアームズ商藩国では訓練による過度な身体への負担をかける事なく、効率的なトレーニングを行う手法としてスポーツ科学的アプローチに着目した。
スポーツ、中でも陸上競技においては走る事は基本中の基本であり、最も研究が進んでいる分野であると言える。
そこで走行フォームや効率の良い筋力トレーニング、高地トレーニング等を取り入れると共に市民病院の医師や栄養士の協力も仰ぎ、四肢の故障や栄養の偏りを配慮した訓練プログラムが作成された。
また個人毎の身体的な能力差を配慮したきめ細かいトレーニングメニューの調整や相談を受け持つ為にコーチやトレーナーの育成にも力が注がれた。

そしてロードランナーの訓練にはスポーツトレーニングのアプローチを取り込んでいるが、純粋なそれとは異なる点もある。
想定される活動エリアが砂漠、森林、ジャングル(密林)、雪原、山岳地帯等の自然の要害とも言うべき入り組んだ場所になりやすい為である。
その為、整地された場所で行われる陸上競技等のスポーツとは異なり、入り組んだ地形の特性を把握し、それらを見事に走破する事を想定した実地訓練も頻繁に行われた。

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#これは左上の四角形に入れる文字を想定しています。

2.視る

偵察兵にFO、偵察用I=Dバーミーズ。
偵察にこだわりと一家言を持つ者が多いナニワアームズ商藩国において偵察兵は登場以来の長きに渡り、
たとえサイボーグが着用アイドレスから外れようとも常に歩兵と共にあり続けた。
しかし時は流れ、そんな歴戦の偵察兵達にも遂にバトンを渡すタイミングが訪れたのである。
これまで歩兵部隊の変遷を見つめ続けてきた偵察兵達の意気込みは並々ならぬものであり、自分達の後継としてのロードランナーの育成には情熱を注ぐ事となった。

さて、ここで話を少し変えて、彼らが熱意を込めて伝授する偵察について改めて少し述べてみよう。
偵察とは自軍の眼となり、敵の状態や状況を”視る”事である。そして”視る”タイミングによってそれは先行偵察と戦果確認の2つに分けられる。
大雑把に例えるならば、相手を殴る前に”視る”のが先行偵察、殴った後に相手を”視る”事が戦果確認である。
つまり戦果確認とは自分達が行った行動の結果をしっかり見つめるという事であり、アフターフォローの第一歩と言えた。
相手を殴りっ放しにしない為に彼らロードランナーは存在するとも言えるわけである。

閑話休題。バトンを渡す側にまわった歴戦の偵察兵やFO達はロードランナーにおける偵察能力の活用法として2種類の用途に着目した。
1つは当然ながら目的地で情報収集に駆使するという用途。もう1つは敵地奥深くまでの進軍ルート(監視の網目や抜け道等)を見付ける為に駆使するという用途であった。
その為に航空写真や地図を読み取る事を徹底的に教え込み、
その上で砂漠、森林、密林(ジャングル)、山に市街地と言った様々な地形でのフィールドワークを重ねる事で頭と体に地形の性質や地図との関連性等を叩き込んだのである。


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#これは左上の四角形に入れる文字を想定しています。

3.隠れる

歩兵が隠れる為の手法・装備と聞いて真っ先に思い付くものの1つとして迷彩または迷彩服が挙げられる。
それは遡ればトラを始めとした野生動物が生来的に備えているものでも有り、人が知恵によってそれらを真似て生み出した工夫でもある。
ナニワアームズでは古くから歩兵やバーミーズで光学迷彩を良く用いていたが、今回はそれをそのまま流用する事はできなかった。
というのも、ロードランナーの活動領域の想定エリアの1つである低物理域では当然ながら光学迷彩なんて科学技術の結晶は作動しない為である。
その一方で低物理域では銃器が運用できない以上、ロードランナー達の攻撃手段は白兵に限定され、必然的に隠れる事の重要性は高まる。

故にこの対策が講じられた訳であるが、検討の結果として採用された方法は実にありきたりで冴えないやり方ではあったが、それだけに効果はそれなりに見込めた。
その方法とは……
TPOに合わせて服装を替える!
以上終わりである。

TLOを用いずに実現する方法としてはこれ以外に思い付かなかったわけではあるが、
衣服はそれこそ原始時代にまで遡らない限りは常に人類と共にあった為、シンプルだが無難であると判断したのである。
幸いながら手元には服を作る為の品質の良い布地には困らない事、服飾関連のアドバイザーもいた事からこの頭の悪い手法は実施されたのである。
こうして砂漠、雪原、草原、森林、密林(ジャングル)、山に果ては市街地。様々なシチュエーションに応じた迷彩服が用意される事となった。
ちなみにちくちく手縫いで作る関係上、低物理域用の野戦服が一番高価かつ貴重であり、皆の愛着も一際で高く人気No.1であった。
実際に綻んだり破れても修繕して長い間、愛用する者も多かったそうである。

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#これは左上の四角形に入れる文字を想定しています。

4.戦う

特殊部隊員という職業がある。
黒を基調としたベレー帽と迷彩服に身を包んだ彼らは日夜、演習場での訓練を欠かさない。
そんな彼らは長い間、ナニワアームズ商藩国の歩兵部隊の戦闘技術の研鑽を影から支え続けた功労者であった。

ロードランナーは敵勢力下で班単独で活動する事が多い為、白兵や射撃等の最低限の戦闘技術の習得は必須である。
そしてロードランナー候補生達がそれらの戦闘技術の習得をする際にも特殊部隊員達の豊富な経験と研鑽が大いに役立つ事となった。

特殊部隊員から出向した教官達はロードランナーの特徴とその任務内容から必要十分な訓練メニューを考案し、これを実践した。

ナイフや銃剣、軍隊格闘術を駆使したCQC(Close Quarters Combat)、拳銃や手榴弾、サブマシンガンを用いた近接格闘、そしてアサルトライフルを用いた射撃戦。
これらの基本戦闘技術に始まり、銃の分解整備から野外でのサバイバル訓練に到るまで単独完結する戦闘単位として機能する為の最低限の技能教育がみっちりと行われた。
それらを受け、ロードランナー候補生達は正にスポンジが水を吸う如く、これらの技術を習得した。
これは各種走力訓練で底上げされた候補生の強靭な足腰や持久力とそれらを合わせて特殊部隊員達によって考案された訓練メニューの相乗効果の顕れであった。

一方で戦術ドクトリンは近代戦闘の基本でもあるファイア&ムーブメントにポイントを絞っての徹底的に教え込んだ。
これはロードランナーの任務が戦闘による敵の撃破では無い事を踏まえて、教える戦術ドクトリンをロードランナーの特徴が活かしやすい1種類に絞り込んだ為である。
ちなみにファイア&ムーブメントとは大雑把に言うと銃火器による射撃で敵部隊の足を止める火力班(ファイア)とその間に相手の側面・後方に回り込んで攻撃を加える突撃班(ムーブメント)に分かれて火力と運動を効果的に連携させる戦術の事である。

#この辺に添付した概要図を挿入

また教官達は特に火力班・突撃班どちらの場合も地形を有効活用する事を徹底させた。
この方針はロードランナーの主な活動地域が入り組んだ地形になりやすい事、
ロードランナーそのものは機動性を重視する為にどうしても軽装甲になりがちである事から採用された。
火力班として行動する時には地形を活かした効果的な遮蔽の取り方を、
突撃班として行動する時には地形に紛れ、適切なルートを見付けて静かに素早く移動する方法を
重点的に訓練したのである。


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タイトル:ロードランナー訓練生の挑戦

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ざわざわと遠くで喧騒の音が聞こえる。
簡素なロッカーが並び、1卓のテーブルがあるだけのシンプルな待機室では一人の男が黙々と作業を続けている。
L字型の銃身、照準器が付いたスライド、グリップや引き金が付いたフレーム、弾層、リコイルスプリング、銃弾
コト、コト、コトと静かで硬質な音と共に一切の淀みの無い所作で拳銃が部品毎に分解されてテーブルの上に並べられていく。
そして部品の一つ一つを丹念に磨いて汚れを拭っていく。

男は名を柊と言い、ロードランナーの訓練生である。
そしてここは年に1,2度だけ開催されるトライアル訓練時にだけ使われる待機室であった。
このトライアル訓練は国境にある富士山の麓から樹海を通り、途中のチェックポイントを経て、山の中腹にあるゴールまで到達するという内容の競技になっている。
ハードな内容であるこのトライアルは訓練課程時の目標や腕試しとして実施され、普段は遭難者が出やすい為に立ち入り禁止である富士山を演習場として行われる。
その内容から参加は任意というか逆に一定以上の実力があると認められないと参加資格さえ貰えない程だが、
それだけにトライアルを突破したものは相当な実力者と一目置かれる事から腕試しに参加する者は毎回多い。
外から漏れ聞こえる喧騒も自らは参加しないもののトライアルの行方が気になる訓練生達が数多く見学している為である。

出番を待ちながら自身のコンセントレーションを高める為に身体にすっかり染み付いた銃の分解整備を行いながら、今回のトライアルのルート選定を頭の中で反芻する。
今回のトライアルでは等高線と河川だけが描かれたシンプルな地図と航空写真が配付されており、参加者達は皆それらを手掛かりとしてルート選定を行う事になっている。
少しずつ銃の整備が終わり、テーブルの上で冷たい光沢を放つ部品が一つずつ組み上げられていく。
自らが駆け抜ける事になる道筋を1つずつ選定しながら柊は時が訪れるのを静かに待ち続ける…。


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ゴオゥゥ
風切り音が鳴り、緑の風景は現れては次々に後方へと流れていく。
一定のペースで繰り返される自身の呼気が聞こえ、足が落ち葉を踏む時になる音がカサカサと聞こえる。
そして落ち葉に覆われた焦げ茶色の地面は傾斜と共に遥か先まで続いており、ジャングルや密林の如く生い茂った樹木や茂みの中に消えている。

鍛え上げた2本の足が身体を前へ前へと斜面を押し上げる。
自身の身体の隅々を指先に到るまで意識し、重心を整え、反復練習で身に付けた走行フォームで脚力を走力へと転換する。

疾走する柊によって撹拌された樹海の空気は静から動へと塗り替えられてゆく。
そして柊は額に流れる汗もそのままに疾走を続けながらも見事な集中力で自身が進むべきルートを次々と見出し、ルートの再選定を繰り返して行く。

何と言っても樹海である。
一瞬の油断が道を見失う事に繋がりかねず、実際には遭難者に備えた歴戦の偵察兵達が本部で待機している事さえも、今この瞬間は柊の頭の中から除外されていた。


今を遡る事、丁度2年前。
ロードランナーを目指してその門戸を叩いたときの彼は自分に全く自信が持てなかった。
取り立てて特技と言えるものも無く、争いごとが好きでは無かった性格も災いして就職戦争には悉く敗退し、ロードランナー訓練校に通う事になったのである。
変化に乏しく、諦観と灰色に満ちた日常生活がまた始まると考えていた彼の甘い予想は入校初日からあっさりと叩き壊される事となった。

性格上、競争があるスポーツにも関心を持てず、それまで殆ど身を入れて身体を動かした事が無かった彼はその日も何時もの如く、惰性で程々に訓練メニューをこなそうとした。
そして一発で教官に見抜かれ、みっちりとワンツーマンでしごかれる事になったのである。
良く日焼けした褐色の肌にベレー帽の端から見えるクセッ毛の銀髪が特徴的なその教官の名前はランディ=ゴトー。これまでに数多くのヒヨコ達をFOへと鍛えてきたベテラン教官である。
その卓越した洞察力によって、まるで読心術でも使えるんじゃないか?と疑うほどの精度でもって、柊の全力を引き出すトレーニングメニューが課された。
日頃の運動不足が祟り、訓練でヘロヘロになった柊が教官に言われるがままに訪れた場所は食堂であった。
そこで出された何の変哲も無いカレーライスを一口食べたときの衝撃を柊は今も色鮮やかに思い出す事が出来る。
それは全力を出し切った者に対してのみ与えられる美味であり、彼がその生涯で始めて味わったはずの、しかしどこか懐かしい達成感の味であった。
この日の出来事を境に彼の行動は一変した。様々な事に全力で挑み、失敗と成功を繰り返しながら1つずつゆっくりと確実に出来る事を増やしていったのである。


そして今、柊はここ富士の樹海にいた。
僅かな物音ともに緑の海原をかき分け、迷彩服に風をはらませながら、己が見出した航路に沿って全力で疾走しているのである。

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少しずつ傾斜が緩くなり、それに従うように頭上に生い茂った樹木の枝葉の隙間からの木漏れ日の量が減る。
より薄暗くなった森林の空気は辺りをひんやりと冷やし、足元の落ち葉も湿り気を帯びて足音を静かに受け止める。
辺りの様相の変化に気が付いた柊はそろそろチェックポイント付近に辿り着いたと当たりを付けて走る速度を緩め、慎重に歩を進め始める。

チェックポイントには多数の中堅の偵察兵やFOが監視者として展開し、監視の目を光らせている。
この監視エリアを無事に突破する事が本試験の必須条件であり、最難関ポイントの1つと言える。
これまでは己との戦いだったが、ここから先は監視者と自分の腕比べである。

自然と息を潜め、気配を殺す。

”隠密行動と偵察は一枚のコインの裏表”

教官の言葉を思い出しながら、注意深く地面に視線を走らせる柊。

”自分が隠れるときも、偵察するときの視点・考え方を忘れるな”

やっぱりあった!何度か人が通った痕跡だ。

監視者の巡回ルートを確認し、その死角となるであろう獣道を見つけ、自身の痕跡をなるべく残さないように注意を払いながら奥へと進み始める。

ある時は樹木の影に隠れ、またある時は身を潜めた茂みの側を偵察兵が通り過ぎるのを息を止めてやり過ごし、双眼鏡を構えたFOの監視を潜り抜ける。
それはさながら銃弾が飛ばない銃撃戦である。視線という名の射線から遮蔽物を駆使して身を守り、動から静へ、静から動へ。
音を立てないように注意を重ね、奥へ奥へと進む。
滝の様に流れていたはずの汗は何時しか止まり、汗を吸った野戦服のアンダーウェアがびっしょりと肌に貼り付き、体温を奪う。

徐々に偵察兵をやり過ごす頻度が増え、何度もルート変更を余儀なくされる。

そしてさらに奥地に進み、何度かヒヤリとする局面をやり過ごすに至って

…おかしい。

嫌な胸騒ぎを感じた柊は違和感の原因に考えを巡らせると、何時の間にか有力な進行ルートが当初の予測の半分にまで減っている事に気が付いた。
どうやら直接目視される事は無かったが、痕跡が見つかったのだろう。恐らく今頃は徐々に監視の網目が狭められているに違いない。

ガサリ。

不意に背後の茂みが揺れ、偵察兵が現れた。

ち、近い!

そう感じたのはどうやら柊だけでは無かった。
驚愕に目を大きく開きながら咄嗟にアサルトライフルを構えようとする偵察兵。
その瞬間には軍用ブーツに覆われた踵がアサルトライフルの銃口に迫る。
後ろ回し蹴りを繰り出しながら、柊はホルダーから拳銃を抜きとり、冷たい輝きを帯びた銃口を相手に押し付けた。
それは訓練によって染み付いた流れるような動作であった。
樹海に2発の銃声が鳴り響く。
どさりと地面に倒れる偵察兵。
柊に蹴り飛ばされた偵察兵の銃口の先にある樹木にはベッタリとペイント弾の染料が塗りたくられていた。

ふうと思わず安堵のため息を漏らした柊であったが、事態は逆により切迫したものになりつつあった。

今回の試験ではペイント弾を一発でも命中した人物はやられたものとみなす。
今、足元に倒れている偵察兵の人もそれでノーリアクションになっているのだが、これは自分にも当てはまる。
ペイント弾が少しでも身体に掠れば即時に失格なのである。
そして派手に鳴り響いた銃声は間も無く周囲の偵察兵やFOを招き寄せるだろう。
仮にこのまま1対多で銃撃戦をやっても結果は火を見るより明らかである。

どうする?ここまで場所が絞り込まれては例え隠れても人海戦術で直ぐに見つかってしまう。
かと言って直接戦うのは論外だ。
刻々と迫るリミットを意識しながら必死に対処法を検討するが焦りが思考を空回りさせる。
思わず項垂れた柊の目に入ったのは自身を支える鍛え抜いた2本の足であった。
その瞬間、柊は腹を括った。

これだ。この土壇場の状況を打破する切り札はこれしかない。

そして柊は一つの賭けに出る事を選んだ。
一度腹を括れば、柊の行動に迷いは無かった。
慌てずにルートを再検討し、幾つかある候補から最も険しい最短ルートを選びだし、引き絞られた矢が放たれたように全力疾走を開始した。

静粛性をかなぐり捨てたロードランナーの走力は目を見張る速度を叩きだし始める。
潜めていた息は次第にリズミカルな呼気へと変わり、騒々しい足音を立てる事も構わずに柊は樹海の中を駆け抜けていく。
騒音に気が付き、周囲から続々と集まってきた偵察兵やFOが追跡を開始する。
それには構わず柊は見出した1つの道筋を、前方を、ただ一心に見据えて真っ直ぐ前へと突き進む。
周囲は再び傾斜が強くなり、生い茂った樹木があちこちに根を張り、落ち葉は地面の凹凸を覆い隠す。
一歩でも踏み外せば転倒し、場合によっては大怪我を負いかねない悪路へと様相が変わり始める。
足場を見極め、迷い無く一歩を踏みこみ、身体を前へと押し上げる。
ロードランナーは絶妙なバランス感覚と強靭な足腰を活かして悪路を次々に走破していく。
落ち葉を舞い上げ、派手な痕跡を残しながら疾走するロードランナー。
やがて木々が途切れ、目に沁みるような青空が前方に広がる。
遂にランナーは追手が呆れる程の騒音と勢いで監視エリアを駆け抜けたのであった。

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富士山中腹のゴール地点。
山特有のひんやりと身が引き締まるような空気の中で柊は目の前に広がる風景に魅入っていた。

眼下には砂で出来た砂丘がまるで絹のような滑らかさで広大に広がる。
その広大な砂の海原を4つに切り分ける交易路
路が交わる中央には緑の輪に囲まれた蒼い蒼いオアシスが宝石のように輝き
それによりそうように宿場町が佇んでいた。


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