書込み色は通常は「この色」で、「緊急告知」や「全体告知」と使い分けてください。
告知・連絡に来て頂いた方々は「外交専用ツリー -1-」をご利用下さいます様お願い致します。

ナニワ作戦会議BBS
[新規順タイトル表示] [ツリー表示] [新着順記事] [留意事項] [ワード検索] [過去ログ] [管理用]

  [No.1775] 設定文+SSの草稿 投稿者:蘭堂 風光  投稿日:2011/05/29(Sun) 21:59:33

概ね設定文とSSの草稿が出来たのでUPします。
#SSのオープニングが前のと全然違うのはスルーして下さい。ええ。キニシテハイケナイ。
ナニワアームズ先端技術研究所のセキュリティ対策についてはそれほど高度な情報処理技術は持っていないので、物理的に管理する方向で考えています。
後はセキュリティ関連の文章がまだ上手く整理出来ておらず、ごちゃごちゃと長いので後で修正予定&SSのオープニングからENDまでの整合性を整える予定です。
但し、設定文やSSの大筋は特に問題が無ければこれで行こうと考えています。
何か内容で不味い点があったり、PC達の行動や言動はこうして欲しいと言った要望等がありましたら、レスをお願いします。

/*−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−*/

概要
ラグドールの開発及び共和国共通機採用と繊維産業のヒットによって経済が大いに潤ったナニワアームズ商藩国では技術立国を目指し、
国立の研究機関であるナニワアームズ先端技術研究所が新設された。
そして人々の暮らしと技術のより良い関係の模索を理念に掲げた本研究所の設立後の記念すべき第1号プロジェクトは繊維に纏わる新素材の開発プロジェクトであった。
本プロジェクトの主眼は繊維加工技術の向上と繊維の衣服以外の用途の確立による新規需要の開拓・掘り起こしの2つである。
こうして方針が決まり、製造技術者、研究者、商人と様々な立場の人から選抜したプロジェクトチームの人選も終わり、
さあプロジェクトを本格的に始めようという所でトラブルが発生した。

にゃんにゃん共和国全土を襲ったデフレスパイラルである。
もともと貧乏な生活になれていたナニワアームズ国内はそれ程深刻な被害は発生しなかったものの、共和国の経済は大いに痛手を被る事となったのである。

そこで当初予定していた珍しい伸縮率を誇る繊維による新素材の開発という路線に見直しの必要が生じた。
不景気な情勢下で単純に珍しいもの、目新しいものというだけでは誰も欲しがらないからである。皆それどころじゃないってなもんだ。
この苦境に対応する為に急遽、プロジェクトの進行計画の見直しを行い、実際の開発を実施する前の段階として政府とプロジェクトチーム間での企画会議を設ける事を決定した。

そうして行われたナニワアームズでは初の試みである政府首脳陣・プロジェクトチームの両者共に手探りで行われた企画会議は通算十数回にも及ぶ事となった。
予想外に難航したものの、数々の試行錯誤を経て採用されたプランが”炭素繊維及びその複合体の研究”であった。
このプランの採用時のポイントは
1.しっかりマーケティングを意識し、調査した結果が反映されている点
2.ナニワ国内でも地下都市の建築物の耐震補強技術等で応用の下地が出来つつあった点
3.レンジャー連邦の航空機や共和国用輸送機であるキャットフィーダー等で繊維強化プラスチックを主要構造材に採用されつつあり、潜在的な需要が高い事が期待できる点
4.ナニワアームズが原油産出国で原料が豊富にあり、扱いにも慣れている点
の4点であった。

プラン採用までには大いに悪戦苦闘したプロジェクトチームであったが、
一度方針が定まれば、そこはプロフェッショナルだけあって各自の行動は迅速であった。
上手く役割分担を行い、それぞれの得意分野を活かした見事な連携プレイでプロジェクトの前に立ち塞がる様々な障害や課題を乗り越えていき、
プロジェクトの研究成果をまとめ上げる事に成功したのであった。
そのときには研究室のスタッフ一同、思わず皆で小躍りする程の喜びようだったという。

次ページでは研究成果を纏めたプレゼンテーション資料を紹介しよう。


#ここからプレゼン用資料風

炭素繊維

炭素繊維とはアクリル樹脂(合成樹脂の1種)や石油ピッチ(石油の副生成物)等を繊維化したものを熱処理する事で製造する繊維状の炭素物質です。
数ある高機能繊維の中で炭素繊維の開発が選ばれた理由の1つとしてナニワアームズ商藩国が石油産出国であり、原材料が豊富にある事が挙げられる。

炭素繊維の特徴は非常に頑丈(高比強度、高比弾性率)であり、軽くて化学的にも安定しており、耐熱性、導電性を有している事で、
それを活かして樹脂・セラミックス・金属との複合体とする事で機能性の付与や強度の向上を図る事が出来、幅広い用途が期待されます。

その利用例としてナニワアームズ商藩国での事例を挙げてみたいと思います。
#ナニワで実際に活用されている場面を上手く表現する方法は何かないものか?

航空機への複合材料の応用
航空機の一次構造材である主翼、尾翼、胴体や二次構造材である補助翼、方向舵、昇降舵等に用いる事で従来のものと同等の耐久性を維持しながら軽量化と組立工数の軽減が見込めます。

スポーツ・レジャー用品への応用
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製の野球バットやテニスラケットは軽量かつ壊れにくいので子供でも手軽に扱えます。
リトルスネーク球場でもCFRP製の野球バットは子供達の間で扱いやすいと好評です。
また炭素繊維を利用した釣り竿は軽くて良くしなるとこれまた好評で最近は地底湖や海岸でのフィッシングが人気になりつつあります。

建築・土木分野の応用
ナニワアームズ商藩国の地下部での建造物の補強技術に炭素繊維シートを活用。
また建築資材そのものとしての炭素繊維強化プラスチックの利用、導電性を活かした建物の電磁波シールドへの活用等が検討されています。

エネルギー分野への応用
石油関連施設でのパイプへの導入、軽量かつ高強度でしなりが少ない事を活かした風力発電施設の風車部分(ブレード)の大型化、
さらに燃料電池の心臓部への応用も検討されています。


ナニワアームズ先端技術研究所
なおこれらの炭素繊維とその複合体の安全性や品質管理についてはこの度、新設したナニワアームズ先端技術研究所での様々な品質管理試験を入念に行う事で維持しています。
ナニワアームズ先端技術研究所ではハイスピードカメラを始めとした各種工業計測装置等も揃っており、それらを活用した各種品質管理試験のデータは希望者には公開しております。

#炭素繊維強化プラスチックの板に衝撃を加えてググッとしなって妙な伸縮になっているイラスト?
図.ハイスピードカメラが捉えた炭素繊維強化プラスチックの耐久試験のワンショット

また上記で挙げた各種分野への応用もこの研究所での研究の成果の1つです。

〜商品プレゼン用資料から抜粋〜

/*−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−*/

ナニワアームズ先端技術研究所のセキュリティ対策

技術情報そのものの価値が今後さらに高まると共に必要性が高まってくる情報セキュリティの重要性に備え、
新設されたナニワアームズ先端技術研究所では今後の藩国施設の情報セキュリティの向上の為のモデルケースとして様々な試みが導入されている。

・セキュリティレベル
・開発者スタッフの名簿作りとバックアップ手法
・チェック体制の見直し
・区画分け
・施設内イントラネット環境と外部ネットとの物理的な切り離し(独立)


→取り扱う技術情報毎にセキュリティレベルを設定し、それらに合わせて情報の保管場所、取り扱い、保管場所へのアクセス手段、閲覧資格を厳密に定義し、分割します。


#聯合国であるフィーブル藩国からアドバイスを貰ったとか出来ないかな?
#→アドバイスを元に上記のような対策を考案したとか。

このページでは政府首脳陣とはナニワアームズ商藩国のPC達を示すとします。

セキュリティレベルの設定
各種技術情報毎にセキュリティレベルを設定し、セキュリティレベルに応じた扱いを行います。以下はその主な指針です。
セキュリティレベルE:対外への開示が可能な情報。主に対外向けの広報情報等
セキュリティレベルD:基本的に社外秘。主に業務提携先の企業等には開示可能な情報。一般的なスタッフや提携先の担当者が閲覧可能です。
セキュリティレベルC:民間での使用に対して安全性が実証された技術全般。民間向け技術。一般的な研究員が閲覧可能です。
セキュリティレベルB:軍事機密に属する技術やTL4以下の最先端技術に相当する技術が対象。国家プロジェクトクラスの技術は最低でもこのクラスの扱いになります。政府首脳陣と厳重な資格試験(※1)をパスしたトップクラスの研究員だけが閲覧可能です。
セキュリティレベルA:空間制御技術、及びそれに匹敵すると考えられる最先端技術が対象。藩王、摂政とそれぞれの技術毎の担当に摂政によって直接任命された政府首脳陣と研究員だけが閲覧可能です。(担当外の技術にはアクセス権限がありません)

※1 資格試験にパスするには技術力のテストに加えて、身元の確認及び十分な研究活動実績(これまでに十分に認められる研究成果を上げている)が必要になります。これらをパスした後、政府首脳陣による面接試験もあります。

また各種セキュリティレベルへのアクセス権限は毎月更新され、最近2ヶ月以上の間に活動実績が無いスタッフ(政府首脳陣と研究員)の権限は一時的に停止されます。
一度停止になった場合には藩王、摂政または彼らから代理を引き受けた政府首脳陣の承認を得る事でアクセス権限を再度得る事ができます。

各セキュリティレベル毎に物理的に仕切られた管理エリアが存在し、各エリアに移動するにはチェック用設備を通過する必要があります。
また各管理エリアはセキュリティレベルが上がる毎に研究所のより奥深くに位置するように配置されています。
(例えばセキュリティレベルCの情報の管理エリアに向かうにはまずE、Dについてのチェックを通過した後にCのチェックをパスする必要があります)

チェック体制は主にセキュリティ認証カードによる機械的なチェックと警備員による目視による確認の2重チェック+αとなります。
※+αの部分はセキュリティレベルに応じたチェックとなります。

またアクセス権限を持つ人が情報にアクセスする場合にもアクセス履歴は残るようになっています。
(チェック要員による目視でのチェック時に書類にアクセス履歴を記述する事に加えてアクセス認証カードでゲートやドア、各種情報端末にアクセス時に機械的にアクセス履歴が蓄積します。)
これらのアクセス履歴もその扱いは同様のセキュリティレベルの情報に準じるものとします。

セキュリティレベルC以上では一般的なネット環境から物理的に切り離されたスタンドアローンのイントラネットが構築され、運用されています。
また情報端末を始めとした記録媒体の持ち込みはセキュリティレベルD以上では基本的に認められていません。(移動前に保管所に預ける事になります)

セキュリティレベルD以上の情報の社外への持ち出しは厳重に管理されています。
基本的には持ち出しは禁止されており、どうしても必要な場合には各セキュリティレベル毎に決められたセキュリティ管理担当者の許可が必要であり、許可を得た場合にも必要書類の作成が義務付けられています。
※セキュリティレベルAのセキュリティ管理担当者は藩王と摂政になります。


/*−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−*/

プレゼン奮闘記

ところはにゃんにゃん共和国に名を連ねる西国が一国、ナニワアームズ商藩国。
広大な砂漠の下に広がる地下都市で知られるナニワアームズの民がその生活拠点を地下から地上へと移し始めた一つの時代の節目の頃のお話。

地上部の中央付近に位置する新居住区には新しい住居が日々建築されつつあり、
建築作業に従事するもの、労働者を相手に商売をはじめるもの、建築された住居の下見に来るもの、旅の途中に立ち寄ったもの、様々な人々の喧騒で賑わっていた。
そんな新居住区の一角にドーンと鎮座している大きな建物の壁はまだ砂漠の砂で汚れておらず、ピカピカの白一色。
白亜の壁に上の方に付いた窓からこれまた沁み一つない白衣を身に付けた青年が街の喧騒を恨めしげに見下ろしていた。
「…うー、頭が痛い。音がガンガン響く…」
少し線が細いながらも整った顔立ちと本来は聡明そうな切れ長の瞳を今は二日酔いで盛大にしかめている青年の名はケンタロウ。
最近、通常の繊維の何百倍もの伸縮率を誇る繊維の開発に成功した新進気鋭の研究者であり、その功績から国家プロジェクトのチームリーダーを任された程の秀才である。

「全く彼女ときたら、酒癖が悪いんだもんなあ。御蔭で僕まで二日酔いだよ全く!」
とぶつぶつとひとりごちながらケンタロウは昨晩の事を思い出す。

/*/
飲み屋のにぎやかな喧騒に負けずにテーブルの端まで届く大きな声を張り上げ、女性が元気にビールのジョッキを高々と掲げる
「えー、それでは第12回、企画会議お疲れさまでした慰労会を開催したいと思います。では早速、かんぱーい!!」
その朗らかな声に釣られるように周囲の面々も陽気に乾杯を唱和した。
彼女の名前は鈴木ライラ。明朗快活にして豪放磊落、砂漠の太陽のように眩し過ぎるぐらいにエネルギッシュで姉御肌の女性だ。
今回の席も4度に渡るプレゼンの失敗ですっかり意気消沈していた僕を激励する為に彼女が思い立ったその日のうちにセッティングしてしまったのである。
とは言え、折角セッティングしてくれた彼女には悪いが、とてもじゃないが酒をおいしく飲める気分ではなかった。
最近、繊維産業の成功を受けて政府の主導で実施される事となった新素材開発プロジェクトのチームリーダーを任されて意気揚々とプロジェクトの方向性を打ち出す為の企画会議のプレゼンテーションに挑んだのだが、
スポンサーである政府首脳陣を納得させるプレゼンテーションができずに終わったのであった。
ああ、ほんと、どうしよう…。思わず溜息をそっとこぼすケンタロウ。
皿に盛られた焼き鳥にも1本も手を付けていなかった。
「おーい、のんでいますかー?ケンタロウクーン」と上機嫌なほろ酔い気分なライラがガシッとケンタロウの肩を掴んで力一杯ゆする。
「わわわ、こ、こぼれますってライラさん?!」
突然揺らされてコップのカシスソーダをこぼさないように四苦八苦するケンタロウ。
「うー?こぼれるって、さては飲んでないなあー!?」
「あー、そんな事ナイデスヨ」眼をそらす
「四の五の言わんと飲むんだ!それともあたしのお酒が飲めないんかなあ??」とますます力強く揺すり続ける。
「わ、分かりましたよ!飲めばいいでしょ飲めば!!」とケンタロウは、こぼれそうになるグラスに慌てて口を付ける
「んぐ、んぐ、ぷッはあ」気付かないうちに喉が渇いていたのか、沁み込むような喉越しであった。
「お、良いねえ。さあさあこの焼き鳥も食べるが良いよ」
そう言うライラの勧めに従ってえーい、ままよと一口パクリ。
絶妙な甘辛いタレと柔らかい鶏肉が口の中でほどける。
……うーんまい!!

/*/

その夜は大いに飲み食いし、どんちゃん騒ぎにライラと共に参加したケンタロウであった。
あれ?なんか半分ぐらいは自業自得な気がしてきたが、きっと二日酔いで頭が上手く回って無いからそんな錯覚をしてるに違いない、うん。
そう回想を切り上げたケンタロウは相変わらずズキズキと痛む頭を押さえながら、水でも飲もうと休憩室に足を向けた。

通路を歩いていると向うから珍しく政府の人がやってきた。こちらに気付いて手を上げる。
「ああ、探しましたよ。ケンタロウさん」
青色のターバンを付けた中肉中背の男が声を掛けてきた。えーっと名前は…そうそう確か蘭堂って言ったかな。
「どうも蘭堂さん。珍しいですね。何か僕に御用でも?」
「ええ、次回の企画会議について何ですが」
「はい」
「えーっと、大変言い難いんですが」
とちょっと躊躇った後
「プレゼン内容に改善が認められなかった場合、ケンタロウさんにはプロジェクトリーダーの任を解いて貰う事になりました」
「え!?」
「これまでに通算12回のプレゼンをして貰いましたが、残念ながら全く改善が認められなかったもので」
「そ、そんな。前回よりも実験データや資料の量も増やしたのに。一体、何処がいけないと言うんですか!?」
「うーん。こういう事は指摘する事は出来るんですが、自分で気が付いて貰わないと多分、実感が伴わないので…」
「そこを何とか!」
「そうですねえ。敢えて言うならケンタロウさん、貴方の視野の狭さが問題なんです。これまでの貴方のプレゼンでは決定的に欠けているものがあるんですよ」
「まー、私から言えるのはここまでです。これに伴って企画会議の日程を少し伸ばして3週間後という事になりました。これがラストチャンスなんで頑張って下さい」
「……はい。わかりました」
では、と立ち去る蘭堂の背中をケンタロウは二日酔いの頭痛も忘れて、ただ茫然と見送ったのであった。

/*/

薄々は感じていた事ではあった。このままでは駄目なのでは無いかと。
失敗が2度、3度と続く間にその思いは少しずつ積り、拭えない焦りを感じていた。
しかしこれと言った改善策を思い付けなかったケンタロウは12回目もプレゼン用の実験データを膨大に用意するというアプローチに留まっていたのである。
そしてその結果が先程の最後通知である。やはりという気持ちが半分、遂に来てしまったという戦慄が半分であった。

彼は言わば技術の信奉者であった。
幼い頃からお祖母ちゃんから聞かされた研究者であり、技術者であった祖父の話を聞くにつけ、やがてそれに憧れるようになった。
祖父のような一流の研究者になる事を夢見た彼は何時しか技術が幸せをもたらすという信念を持つようになっていた。
そんなある日、突然ナニワアームズに悲劇が2度、見舞われた。
1つはマンイーター。そしてもう一つはセプテントリオンによる冶金工場での薬物汚染である。
技術の暴走や悪用によるこれらの事件は彼の心に暗い影を落としていた。
彼の信念を真っ向から否定するようなこれらの事件の反動で彼はより一層、勉学に研究に打ち込むようになる。
絶対に人を幸せにする技術だってあるはずだと。
より珍しい技術、まだ誰も見た事の無い技術。それを求めて一心不乱に研究に没頭した彼は遂に通常の繊維の何百倍もの伸縮率を誇る繊維の開発に成功した。
しかし彼はそこでふと足を止める事になった。世の中を見渡しても類を見ない新しい技術の開発に成功したものの、それで幸せが降って湧いてくる訳ではなかったのである。
これから先、どこへ向かうべきか悩み始めた彼に思わぬ話が舞い込んだ。それが新素材開発プロジェクトだったのである。
そして一も二も無くその話に飛びついたケンタロウは企画会議のプレゼンテーションで自分が発明した新機軸の伸びる繊維の珍しい特性を様々なアプローチでアピールを試みたが、
芳しい成果も手応えも得られないままに遂に最後通知を受ける事となったのである。
このままではいけない。ケンタロウは焦りと共にその思いを強く強く噛みしめた。

/*/
ところは変わって研究室。
「うーん、しかしどうしたもんか」
出来立てほやほやの最新設備がずらりと並んだ部屋の端で様々な文献の山に埋もれる様にケンタロウは思案に暮れていた。
他国の繊維関連の研究論文をパラパラと捲りながら、一体何が足りないと言うんだろうと頭を捻る。

こんこん。
とノックがしたと思ったら、返事をするよりも早く研究室の扉が開かれてライラが弾丸のように飛び込んできた。
開かれた扉の合間から差し込んだ赤い夕焼けの光に目を細める。
夕日を背後に背負ったライラは堂々と仁王立ち。相変わらず意気軒昂そうだと思わず感心するケンタロウであった。
「聞いたよ!今度の企画会議がラストチャンスだって!?」
「うん。そうなんだよ。それで今、どうしたもんかと頭を捻っている所」
「それで成果は?」
無言で首を左右にふるケンタロウ。
「まあ、そう昨日今日で何とかは成らないよねえ」とさもありなんと頷くライラ。
「そこでだ。あたしに良い考えがある」
ニヤリと微笑むライラの顔を見て、二日酔いがぶり返したようにケンタロウは顔をしかめた。

/*/

翌日、ケンタロウは早朝から叩き起こされ、ライラと共に藩国中を連れ回される事となった。

朝一番に採光穴に差し込む日差しを眺めたり、
そこに偶々通り掛かったご老人達と一緒に早朝のジョギング&ラジオ体操に参加してみたり、
小腹が空いて時に通り掛かった屋台の美味しそうなたこ焼きの匂いに誘われて、軽めの朝食代わりにソースたっぷりのたこ焼きを口一杯に頬張る。
りとるスネーク球場で草野球を見学し、
ちかにかモールで最近ようやく商売が再開された家電量販店でCDラジカセやDVDプレイヤー等を見て回る。

散歩なんかしている暇は無いんだがと渋るケンタロウとまあまあ、煮詰まった時には身体を動かすのが一番!と宥めるライラ。
身体を動かせば新しい活力も湧いてくるもんよ?と元気の塊である当人がいう事に何となく説得力を感じてしまったケンタロウはそのままライラのペースに乗せられて一日中散策を行ったのであった。

一通り散策を終えて、程良い疲労感と共にライラと別れたケンタロウは最近泊り込んでいた研究所ではなく、久し振りに下宿先である安アパートへの帰路に着いた。
何となく鼻歌交じりに歩いていると近所に住んでいる知り合いのトモエ婆ちゃんが一目で年代物と分かるラジカセをしきりに弄って思案しているのが目に入った。
「あれ、おばちゃん。どうしたの?」
「ああ、ケンちゃんか。久し振りだねえ。いやねえ、どうも故障したみたいで困ってるんよ」
「どれどれちょっと貸してみて。何処が悪いか見てあげるよ」
「そうしてくれる?助かるわ」
「ラジカセの修理ぐらいは朝飯前、いや晩飯前だからねえ」
気軽に請負い、トモエ婆ちゃんからラジカセを受け取ったケンタロウは密かに驚いた。
角が取れるぐらい使い込まれ、頻繁に押すボタンの塗装は剥げていたラジカセは色褪せてはいても、傷一つ無いその表面は傷は丁寧に汚れは拭われており、
持ち主がそのラジカセに愛着をもち、大切に使い込んでいる事がはっきりとわかるものだった。

軽く点検してみると電源回りの部品が幾つか老朽化していたので自室にあった予備パーツを交換し、ついでに幾つか気になった点を整備した。
一通り修理を終えて、試しに音楽を再生すると、小さい頃にお祖母ちゃんが子守唄代わりに良く歌ってくれた古い流行歌が流れる。

懐かしいメロディと共に不意に寝物語に聞かされたお祖母ちゃんの昔話がケンタロウの心の片隅に浮かび上がった。

数々のロングセラーとなる商品の開発に成功していた祖父がある日、テレビの取材でインタビュー記者に聞かて答えたその秘訣とは
”お客さんの顔が見える商品を作る”というものだった。

見事に復活したラジカセに大喜びのトモエ婆ちゃんはとっておきのお茶菓子を振る舞ってくれた。
ラジカセから流れる歌を聴きながらの縁側での一服。
のんびりとした曲と共に流れる緩やかな一時の中でケンタロウは不意に思い出した昔話を不思議に思って反芻していた。。

/*/

その夜。
下宿先の押し入れから留学生時代の同窓会名簿を引っぱり出したケンタロウは早速メモを片手に電話をかけ始めた。

/*/

それから時が流れ、遂にケンタロウの最後のチャンスというべき第13回企画会議当日。
研究室には企画会議には出席していないプロジェクトメンバーが大勢集まっていた。
うろうろうろ。あっちにふらふら。こっちでそわそわ。
そして落ち着き無く研究室内を動き回りながら企画会議が終わるのをまだかまだかと待ち続ける鈴木ライラの姿があった。
そんなライラの様子を見かねて数人のメンバーが声を掛ける。
「ライラ姐さん、そんなに心配したって仕方無いって」
「そうそう、やるだけやったんだから果報は寝て待てっていうじゃないですか」
「そ、そうは言ってもねえ〜〜」と珍しく眉毛をハの字に下げて心細そうに答えるライラ。
チクタク、チクタク。秒針の音まで耳に付く。
会議の終了時間が近づくと共に研究室は静まり返って行った。
そして暫くすると
「お、そろそろ時間だ」と誰かが言ったと同時に研究室の扉が開き、静かにケンタロウが入室する。
「ど、どうだった?」と恐る恐るケンタロウに声を掛けるライラ。
その声を受けてスッと持ちあげたケンタロウの右手は人差し指と中指を立て、ピースサイン。
「バッチリ!!GOサインがおりたよ!」
ニカリと笑って嬉しそうに報告するケンタロウ。
爆発するように研究室内で挙がる歓声!思わず小躍りするプロジェクトチームの面々。
その日はそのまま深夜まで祝賀会に雪崩れ込んだのは言うまでも無かった。

/*/
舞台裏。政庁の一室。
「はらはらしたが発破をかけた甲斐があったな」と乃亜。
「そうねえ」と答えた守上摂政の手にあるプレゼンで配付された新素材開発プロジェクトの資料には”炭素繊維及びその複合体の開発と日常生活への応用技術について”と書かれていた。
「御蔭で胃に穴が開くかと思いましたよ。まあ結果オーライですが」と蘭堂。
「しかし炭素繊維に方向転換するとは、なかなか思い切った決断をしたもんですね」と真輝。
「何でも留学生時代の他藩国のクラスメイトとかに協力して貰って、マーケティングにチャレンジした結果らしいよ」
「なるほどねえ」
「まあ何にせよ、一安心ですな」
という言葉に執務机の上で丸まっていたトラさんが
「にゃーん」と頷くように一鳴きしたのであった。

END


- 関連一覧ツリー (▼ をクリックするとツリー全体を一括表示します)

- 返信フォーム (この記事に返信する場合は下記フォームから投稿して下さい)
おなまえ ※必須
文字色
Eメール
タイトル sage
URL
メッセージ   手動改行 強制改行 図表モード
メッセージには上記と同じURLを書き込まないで下さい
画像File  (300kBまで)
暗証キー (英数字で8文字以内)
プレビュー   

- 以下のフォームから自分の投稿記事を修正・削除することができます -
処理 記事No 暗証キー