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ナニワ作戦会議BBS
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  [No.1174] SS(清書版)修正2 投稿者:蘭堂 風光  投稿日:2010/02/04(Thu) 00:25:20

同じくSSの最終版です。
#親方とカマキリの差し替えと各所の誤字修正、及び言い回しの修正
#少しでも説明臭さが緩和出来ていると良いなあ(汗。

/*/


○承前
ここは砂漠の藩国であるナニワアームズ商藩国。
偵察と怪獣とドリルで有名な我が藩国は初期の頃から資金繰りには苦労しているわけであるが(詳しくはこちらhttp://blog.tendice.jp/200612/article_53.html参照)
これはシーズン2に移行しても相変わらずであった。

観光地や遊園地の好調を受けて開発に着手した大観光地も完成した頃には観光業界は多くの同業他社(他国?)の強力なライバルがひしめく激戦区となっていた。
共和国環状線の駅ビルが完成した当初は入国チェックが厳し過ぎ、プチ鎖国状態になる。
有望な鉱脈を発見し、鉱業で産業復興を狙うも、セプテントリオンがちょっかいをかけてくる。
まさにトホホである。
俺らはお金に縁が無いのではないか・・、そんな諦めにも似た絶望の闇が薄らと包み込むかに見えたそのとき

”次期共和国主力機の開発”その言葉は正にそんな暗い雰囲気を払拭する一条の光明であった。

事の起こりは高機動型偵察機バーミーズから始まったナニワアームズ商藩国の独自I=Dの開発がテストベットであるサイバミーズを経由し、高機動兵器ジャバニーズとして結実した事であった。

燃費こそ悪いものの、既存のI=Dの常識を覆す可能性を秘めた圧倒的な機動力を有するこの高機動兵器の性能が認められ、遂に次期共和国主力機の開発の話が持ち込まれたのである。
これまでコツコツと積み上げてきたナニワアームズ商藩国のI=D開発技術が日の目を見るチャンスの到来であった。
これには元々職人・商人気質の強い国民達の間で期待が募り、高まる機運に応じるように国の威信と国民の期待を背負った次期共和国主力機の開発プロジェクトが発足されることになった。

当然、この開発プロジェクトも様々な障害や壁にぶつかることもあるだろう

しかし

観光地の資金集めが難しいなら燃料精錬所を建設してより効率良く製錬した燃料でやりくりしたように
鎖国状態を受けて大急ぎでチェック体制を見直し駅ビルの正式オープンには正常な運営が出来る状態にまでこぎつけたように
冶金工場で暗躍していたセプテントリオンを追っ払ったり、神様の助けを借りたりしつつ、なんとか立て直したように

やり遂げようとする意志があれば必ず乗り越えられるはずである。

”次期共和国主力機、それは長きに渡りナニワアームズに影を落とし続けている貧困という名の絶望の闇の中に差し込んだ一条の光明であった。”

この光明が闇を払拭する事を願って開発スタッフ達の奮闘がここに始まるのである。

○プロジェクト始動
「守上摂政!今、次期共和国主力機開発の機運が高まっています。今こそ好機!是非プロジェクト実行の承認を!!」
そう力説した男が手にした次期共和国主力機開発プロジェクト計画書には『街頭アンケート、1000人に聞いた次期共和国主力機開発への期待』等といった文字が踊っていた。
その見出しの謳い文句はどうよ?と思ったものの内容そのものは真っ当だったので見出しは見なかった事にした。
今度、プレゼンの仕方をもう少しレクチャーしておいた方が良いかもしれない。
ま、それはともかく確かに好機なのは事実だろう。
「よーし、わかった。承認!」
ポンッ!と計画書に押された承認のハンコマーク。
こうして実際にプロジェクトが実行に移される事となり、在野に散っていた開発スタッフが再び集められる事となった。

/*/

とある町工場の一角。
熊の様な巨漢の男は故障した小型ラジオを手にし、ためつすがめつ眺めていた。
「どうだい、熊五郎さん。直りそうかい?」

初老の男が巨漢の男にそう声をかける。

「ああ、このぐらいなら問題ない。まあ任せろ。」
と巨漢の男、熊五郎はその容貌に似合わず器用な手先で手にした小型ラジオを瞬く間に修理した。

「ほれ、じーさん。一丁上がりだ。」
「おー、いつもすまんねえ。」

長引く経済不安から新しい電気機器などが手に入りにくくなったナニワでは、かなりの年季ものでも近所の整備士に頼み込んで修理して貰うという光景はよくあることである。
と、そこに
ドドドドドドドドドドドド
怒涛の足音と盛大に立ち上る砂煙。その根元に見えた米粒大の人影が瞬く間に間近に迫る。
騎乗怪獣スタコラターに跨って颯爽と現れた人物の満面の笑顔のアップ。
「ちーっす。郵便屋でーす。ロバート熊五郎さん、お届けものです。」
すれ違いざまに封筒を手渡すとノンストップで走り過ぎてフェードアウトする郵便屋。

「な、なんだったんだ。あれ?」「さあのう?それよりそれ、開けてみてはどうかのう。」
それもそうだなと開けた封筒の中にあった一通の手紙に目を通す熊五郎。
「そうか、いよいよ始まったか。腕が鳴るぜ。」
手紙を握りしめ、嬉しそうに微笑むと工場の奥に声をかける。
「おおーい。お前達、いよいよ出番だぜ。出立の準備をしろ!」

その声に応えて
「「「合点でさあ。親方ー。」」」
と奥から姿を現す整備士達。

/*/

カッと照りつける強い日差し
広大な滑走路の上には薄らと砂が散りばめられていた。
軽快なローター音が聞こえると同時に地面の砂が風に乗って舞い上がる。
路面に移った影がどんどん大きくなり、年季の入ったキャットバスケットがそっと降り立つ。
待機していたスタッフ達が集まり、キャットバスケットから援助物資を運び出し始める。

その様子をコクピットから眺めていた男は
「よっこいしょ。」と操縦席から腰を上げて、出口へと向かう。
歩きながらヘルメットや酸素マスクを取り外すと、そこには立派な銀色の口髭と頬や目尻に皺が見える初老の男の顔があった。
「ふー、終わった終わった。」と肩を回して解しながら地面に降り立つ。

「あ、ファヒームさんお疲れ様です。相変わらず見事な操縦でしたよ。」

「よせやい。普通に操縦しただけさ。俺みたいなロートルはこいつを飛ばすだけで精一杯さ。もうそろそろ引退どきかもな。」

「何言ってるんですか。いまだにこの骨董品がどうにか動いているのだって、ファヒームさんの操縦テクがあればこそですってば。」

「いやそれは単純に整備士の腕前が・」

ドドドドドドドドドドドド
怒涛の足音と盛大に立ち上る砂煙。その根元に見えた米粒大の人影が瞬く間に間近に迫る。

「ちーっす。郵便屋でーす。ファヒーム=ターリックさん、お届けものです。」
すれ違いざまに封筒を手渡すとそのままノンストップでアスファルトの地面を勢い良く蹴りながら飛行場からフェードアウトする郵便屋。

「なんだ?あれは・・」
「ゆ、郵便屋だそうですよ。」
「まあそうは言っていたが・・。ともあれ手紙か、どれどれ」
手紙を読み始める初老のパイロット。その後ろから興味津津で覗き込むスタッフ。

「ほら、やっぱり凄いじゃないですか、テストパイロットに選ばれるなんて!」
「そ、そうか? うーん、まあ引退前にもう一働きしてみるかな。」
「その意気ですよ。頑張って下さい!!」

/*/

ぶしゅー。構内に響き渡るドアの開閉音。
共和国環状線の列車からホームに降り立つ若者2人組。
でっかいボストンバックやトラベルバッグを抱えた重装備である。
「やー、久し振りの我が故郷!何のかんの言ってもやっぱり懐かしいなあ。」
「だな。国外に出て勉強している間に色々事件のニュースがあったんで心配だったけど、変わりないようだし。」周りを見渡しつつ。

ドドドドドドドドドドドド
怒涛の足音と盛大に立ち上る砂煙。その根元に見えた米粒大の人影が瞬く間に間近に迫る。

「ちーっす。郵便屋でーす。マイクさんに健一さん、お届けものでーす。」
すれ違いざまに封筒を手渡すとノンストップでスプリンターに跨ったまま器用に階段を駆け上がりフェードアウトする郵便屋。

「・・ま、まあ、全く同じという訳ではないんだな。」
「というか、よくこうもタイミング良く届けれるもんだ(汗」

ま、気を取り直して と手紙を広げる2人組。

「お、こ、これは!」
「早速、留学の成果が活かせそうだな。」
「ああ、やったろうじゃないか!」パンと手を打ち鳴らす

意気揚々と歩き去る2人組。

カバンからはみ出した手紙がひらりと風でめくれる。

”この度、次期共和国主力機開発プロジェクトが正式に開始されるはこびとなりました。”
”ここに貴官を開発スタッフと任命し、・・・”

P.S.この後、2人組が藩国地下の天井に開いた大穴に度肝を抜かれるのだがそれはまた別の話である。

/*/

こうしてナニワ各地から集結する開発スタッフの面々。
暫くの間、静かな眠りについていたアイドレス工場に再び火がともり、人と言う名の血液を全身にめぐらせて覚醒していく。
そこには新たな息吹と情熱が確かに生まれつつあった。

そして、そこには幾つもの物語が生まれていく事となった。




○親方とカマキリ
熊のように大きな身体がトレードマークの古参の整備士、熊五郎。人呼んで親方。
久方振りに活気に満ちた工場内を大股でズンズンと歩いていく。

油で青いツナギが汚れるのも構わずに一生懸命にスパナでボルトを締める青年。

溶接面や皮手袋、防塵マスクといった防護装備に身を固め、見事な手際で溶接を行う熟練の溶接工。

クレーンでI=Dの各部パーツを移動させる者。

鳴り響く大型機械の作動音にアーク放電による溶接音。

工場内の喧騒に負けないように声を張り上げて指示を飛ばす者。

一角に集まって整備マニュアルを見ながら綿密な打ち合わせを行うグループ。

正に待ち望んでいた現場の空気であった。

しかしそんな待望の現場の中を歩く熊五郎は何故か浮かない顔である。
最近、開発作業の所々で微妙な進捗の遅れが発生しており、それに対するモヤモヤとした印象が親方のストレスとなっていた。
例えばそれはこんな具合である。

機体開発と並列して行われている武器開発での試験用の代替機として用いているジャバニーズの修理やメンテが特注のネジが1本足りないばかりに数日間滞る。
ジャバニーズの整備マニュアルの読解に若手整備士達が予想以上に苦戦しており、ジャバニーズの整備作業の進捗も遅れがち。

ちなみにこれらの原因は既に分かっている。
ジャバニーズの部品不足は生産数がまだ少ない為に予備部品の在庫のストックが余りない為だし、
若手整備士達がジャバニーズの整備マニュアルの読解に苦戦しているのは彼らが整備士養成校時代の教材として用いたサイベリアンともバーミーズとも異なる書式や表記が用いられている為である。
どれも時間と共に解決される(部品不足は生産数が増えれば、整備マニュアルについては慣れる事で)であろう問題ではある。
しかし熊五郎自身も開発に携わった会心の出来であるはずのジャバニーズ周辺で幾つかのトラブルが発生しているという事実が彼の心にモヤモヤとした気持ちを抱かせるのであった。

(そう、何も問題は無いはず・・だが、どうもな。何かが欠けているような気がするんだが)
ボリボリと頭を掻き毟りつつ、ウムムムと唸りながら歩き続ける。

そんなまるで冬眠から目覚めたばかりの熊のような彼の有り様に周囲の面々は潮が引くように道を開けるのであった。
思索に耽る熊五郎はそんな周囲の様子に気が付かないまま、控室の扉を開けて室内に入る。
部屋の真ん中にあるテーブルにはミルクがタップリ入ったガラス容器が置かれており、
側では少し年季の入ったツナギを着た整備士がコップに入れたミルクを片手に本を読んでいた。

「よー、親方。どうしたんだい?そんな難しい顔して。後輩達がビビってますよ」
「あ、そうか?イカンイカン。(軽く眉間を揉み解す)どうも最近、気になる事があってな」
「気になる事? あ、そうそうミルク飲みます?絞りたてですよ」と空のグラスを取り出し、ミルクを注ぐ。
「悪いな、丁度喉が乾いてたんだ。頂くよ」とミルクを受け取り、腰に手を当て、グビリ、グビリ。
「ぷはー、生き返るなあ。どうも最近、細かいトラブルが目についてな。一つ一つはどうって事は無いんだが」
「なーんか、気になってしょうがない。こう喉元まで出掛かっている気がするんだが。ピースが欠けているというか、うーん」と唸る熊五郎
「親方親方。また眉間に皺が寄ってますよ」と苦笑するベテラン整備士。
「は!?イカン、イカン。それはそうと何読んでるんだ?」
「あ、これですか。この間、留学から帰ってきた若手から借りたんですが、結構興味深いですよ」
「何々、MA…N…TI…S 規格概論。うーん、どんな内容なんだ?」
「そうですねえ。大雑把にいうとニューワールドテラ領域内で鉱工業品の仕様や関連する技術文書の書式を統一する為の標準規格について書かれていますね」
「ふんふん、なるほど標準規格ねえ…。…!?…。それそれ、それだよ!」途中まで調子良く打っていた相槌を何処かに放り投げて一気に身を乗り出す熊五郎。
「え、ええっ?な、何が!?」勢いに押されて軽く仰け反り気味のベテラン整備士。
「標準化だよ、標準化! 主力機を目指すならその概念が必要なんだよ!!」と力説する熊五郎。
「ああ、それがモヤモヤの原因だったわけですね。そういう事ならこれ読みます? 持ち主には後で私の方から言っておきますんで」
「おお、そうか。ありがとう、ありがとう」ガシッと相手の手を掴み、上下に大きくハンドシェイク。喜色満面である。
その後、入る前とは打って変わって足取りも軽やかに熊五郎が控室を去っていくのを不思議そうに見守る整備士一同であった。

以来、数週間程、熊五郎の住処の部屋の明かりは夜遅くまで灯り続ける事となったとさ。

○星空と少年と・・
俺の名前は健一。ついこの間まで国外に整備技術や機械工学の勉強の為に留学をしていた新鋭の若手整備士である。
始めのうちこそ、機体整備の手伝いだの、整備マニュアルのリライトの手伝いだのとなかなか大役は任せて貰えなかったものの、ついに次期共和国主力機の1モジュールの設計に携わる事になったのである。

とはいうものの・・・

くそ、これでも駄目だ上手くいかない。あー、くそったれ、やめやめ。

何事もトントン拍子とはいかないもんで、目の前の難題にゲンナリとして思わずため息をつく。

「お前はまたそうやって直ぐに諦める。粘りが足りないのはお前の短所だぜ。」と小さい頃からの腐れ縁の相棒であるマイクの小言が耳に入る。
ますます不機嫌になった俺はブスッとふくれっ面のまま
「気分転換に夜風に当たってくる。」と言って外に出た。

外に出ると砂漠特有のヒンヤリした夜風が頬を撫でる。
煮詰まった時にはこれが一番。少し機嫌を直した俺はそのまま軽く鼻歌を歌いながら道なりにのんびりと散歩する。

暫く気儘に散策を続けると住宅地にさしかかったらしく、民家が立ち並び始める。
そこで民家の窓から夜空を眺める少年が目に止まった。
「坊主、何か見えるのか?」
一心に星空を見上げる少年のハッとするような真っ直ぐな眼差しに惹きつかれるように俺は思わず声をかけていた。
驚いたように目をパチクリとさせると今度はこちらをしげしげと眺めだす少年。
やば、思わず声をかけちまったがこれじゃあ変質者みたいじゃねえかと内心冷や汗を流す俺。
そんな様子に特に害は無さそうと判断したのか
「うん。星を見てたんだよ。」
と答える少年。
「星?そんなに星が珍しいのか。まあ確かに穴が開く前は天井越しにしか見れんかったか。」
「違うよ、おじさん。あのね、この前にすっごく綺麗な星空が見えたんだよ。まるで宝石箱を引っ繰り返したみたいに光って綺麗だったんだ。」
何でも少年の話によると俺が留学を終えて帰国するよりも前に暫くの間、空気がひどく澄んで星々が綺麗に輝いていた期間があったらしい。
少年の説明はお世辞にも上手とは言えなかったが、その時の様子を思い出しながら一生懸命に語る少年の様子を見る限り、余程見事なものだったのだろう。
「そんでね、かーちゃんの話によるとそんな風に空気が澄む事はすっごーーく珍しいんだって。」
「でもさ、僕、もう一度見たくて。どうしたら見れるかなあって考えてたんだ。」
「そうか、それで何かいい手は見つかったのか?」
「うん。空気が邪魔なら空気が無い所まで行けばいいと思うんだ。」
「なるほど確かに妙案だな。」
「・・でもジャンプじゃあそこまでは届きそうに無いんだ。飛行機でも無理だってかーちゃんも言ってた。」少年の表情が少し曇る。
「ハッハッハッハッ。そりゃあそうだ。でも着眼点はいいぜ。いいか坊主、綺麗な星空がみたいなら宇宙飛行士になればいいのさ。」
「うちゅうひこうし?」
「ああ、あの星空を駆け巡る宇宙船に乗るパイロットってやつさ。」
「へー、いいなあ。僕にもなれるかな?」再びキラキラと目を輝かせる少年
「ああ、諦めずに夢を目指せばなれるさ」
何となく勢いに押されたのか、俺はつい口を滑らせて普段は口にしないような事を口走る。
「そうかあ。うん、僕頑張ってみるよ。」
「おう、精々がんばりな。さてそろそろ夜も更けてきたし、ガキは寝る時間だぜ。じゃあな。」
何となくこっぱずかしくなって話を切り上げた俺はそこで少年と別れて作業室に戻った。

さあてと、それじゃもう一仕事頑張るとするか。

早速、作業に取り掛かると
マイクが目を丸くしてこう呟いた。

「珍しい。本当に今日中に気分転換から帰ってくるとは、こりゃあ明日は砂嵐だな。」

け、憎まれ口を叩く暇があったら手を動かせってんだ。
まったくマイクの奴は何時も一言多くていけねえ。


○虚空に浮かぶ銀槍
どこまでも見渡せる広い空
染める輝くような赤味を帯びたオレンジと
ほの暗い薄青色のコントラスト
その狭間に浮かぶわずかな雲は橙色に燃えあがり、アクセントを添えている。

その澄み渡るような空模様を四角く切り取った窓から眺める見事な口髭を蓄えた初老の男の名をファヒームという。
窓の外に広がるその光景は彼が幼い頃から見続けてきた原風景であった。
この老パイロットは今、次期共和国主力機の最終試験を行う為に政府が調達した民間シャトルに2人の同期生と共に乗り込み、宇宙に上がるときを待っていた。
ファヒームが窓から目を離し、共に試験を受ける相棒達に目を移す。
サングラスをかけて腕組みしながらうたた寝している青年と熱心に教本を読み返している猫耳少女。ともすれば親子か孫かという程の年の差である。
しかしそんな彼らと共に挑む事になった地上での高機動兵器の慣熟訓練を通してファヒームは確かな手応えを感じていた。
(大丈夫だ。俺たちならやれるはずだ。)
心の中でそう呟くと宇宙に飛び立つときを静かに待ち続けた。

/*/

漆黒の闇の中、2本の光のレールがどこまでも何処までも伸びていく。
そしてレールを追うように2筋の流れ星がどこまでも流れ落ちる。

広大な漆黒の闇、その宙域を漂う無数の観測ビットが灯す誘導灯が2本の光のレールとなって虚空に光の立体サーキットを描き上げる。
その光のレールのド真ん中を流れ星のように光の尾が駆け抜ける。
ブースターの噴射光と誘導灯に照らされ、闇の中に時折シャープな流線形を持つジャバニーズの輪郭が浮かび上がる。
そしてその後をピッタリと追走する灰色にも見えるくすんだ白色の機体。
ロングストレートに急カーブ、立体交差に螺旋
巨大な光のサーキットを構成する光のレールはドンドン複雑さを増していき
ターン、インメルマンターン、ヨーにバレルロール
レールを追いかける2筋の流れ星も複雑な光の軌跡を描いていく。
無限大の漆黒の虚空のキャンバスに描かれた広大なはずの光のサーキットは瞬く間に2つの光条によって走破されていく。

そして程なく、文字通り天文学的な行程を駆け抜けて2つの黒と白のI=Dが光のサーキットを完走した。

/*/
コール音が響き、白色のI=Dの中で通話用のウィンドウが開く。
『パーフェクト!10点満点で機動力試験クリアですよ。皆さん、お見事です!!』
興奮気味のオペレーターの声を聞き、ふーと安堵のため息と共に強張った手を操縦桿から引き離すファヒーム。
「まあ俺たちのチームワークに掛れば、チョロイもんですよ。ね、ファヒームさん。」とニヤリと不敵に笑う青年
「こらノブヒデ!調子に乗らないの。まだ試験は残ってるんだからね。」と猫耳をピンと立てる猫耳少女
「まあまあアカネ、少し落ち着いて。とは言え確かに後1つ残っているので気を引き締めていこう。”勝って兜の緒を締めよ”だ、ノブヒデ。」
「へーい。」と少しバツが悪そうに頭を掻く青年ことノブヒデ。
「とは言え、ノブヒデくんの航法オペレートはバッチリだ。残る試験もこの調子で行くとしよう。」
「へへっ。大船に乗ったつもりでドーンと任せて下さいよ、ファヒームさん!」と自分の胸を叩く仕草をするノブヒデ
「もー。」とジト目でノブヒデを見るアカネと苦笑するファヒーム。

『さあ皆さん。ご歓談中ですが、最後の試験内容を再確認しますよ?』とオペレーター
「ああ、すまん。よろしく頼む。」とファヒーム。

キューブ状の立体映像が浮かび上がり、黒い立方体の中に無数の光点が表示される。
『この光点が今回の試験宙域に散布されている観測ビットです。』
『先程のテストではコースを示す誘導灯代わりでしたが、今回はこれらのうち、赤色のランプが点灯しているものが敵機を想定したものになります。』
映像内の光点の大半が赤色に変わり、キューブの中央に近付く程、赤い光点の密度が高くなっていく。
『そして中心部に存在するこの緑色の光点。これが今回のターゲットとなります。』
密集した赤い光点に埋もれるように緑の光点が灯る。
『そして観測ビットに搭載された観測用のレーザー照射装置が放つレーザーを敵機の攻撃と見なします。』
『この”攻撃”を潜り抜けてターゲットを破壊し、安全宙域まで無事退避できれば試験クリアです。』
『以上が試験内容となります。皆さん、準備はよろしいですか?』

「了解だ。」「わかりました。」「りょーかい。」
揃って頷き、同意する3人組。

『それでは3カウント後、テストスタートです。皆さんの健闘を祈ります。』
そう言うと通話ウィンドウが閉じ、代わりに大きく”3”を表示したウィンドウが開く。
「火器管制システム、異常なしです。」とアカネ
くすんだ白色のI=Dのバーニアに火が灯る。
”2”
「空間把握と航法用の各種測定機器オールクリアだぜ。」とノブヒデ。
巨人のカメラアイが瞬く。
”1”
「了解!これより本機は試験を開始する。」と操縦桿を握り締めるファヒーム。
姿勢を整える白き巨人。
”0”と同時に噴射光が辺りの虚空を照らし、白色の流れ星が赤色の光点が生み出す雲海に向けて流れる。

/*/

徐々に近づく赤い雲海。
「遠距離砲撃が可能なレンジに到達しました。」
とアカネが告げると同時に各種観測データからアカネが導き出した複数の砲撃プランがOSを介して各自のコンソールに表示され、共有化される。
「よっと」
ノブヒデが現在の位置情報をピックアップして共有化する。
ファヒームがそれらを参考にして即座に軌道を修正し、砲撃ポイントに機体を移動。

虚空を引き裂いて光条が赤い雲海に突き刺さる。
音も無く無数の光の花が開く。
「誤差修正+2」
続いて再び光条が閃き、より多くの光の花が前方に咲き乱れる。
雲海に生じた間隙のその先に拡大映像が捉えた薄らと緑の光点が見える。

そのままの加速度を維持し、速度を上げ続けなが遠距離砲撃で生じた観測ビット群の間隙に潜り込み、隙間を広げるように前進する。
その前進を止めようと展開されていく観測レーザーの赤い光条が軌道の自由度をドンドン絞り込み、密集地点に追い込もうとする。
瞬く間に前方の虚空が無数の赤い格子で四角く切り取られ、コンマ秒単位で自由度を削ぎ落としていく。
「ファヒームさん!」
コンソールに送られる観測ビットの位置情報。素早く視線を走らせると操縦桿を素早く操作しつつ、トリガーを引き絞るファヒーム。
奥から放たれるレーザー光をバレルロールで纏わりつくように回避しながら周辺の観測ビットに銃撃をばら撒き、ルート選択の自由度を回復させていく。
「流石に激しいな。ノブヒデ、姿勢情報とターゲットとの位置関係の把握を密に頼む。ルート上の障害になるビットだけに絞り込んで叩く。」
「りょーかい。」
アカネとノブヒデからの情報を頼りに効率良く障害となる観測ビットを狙い撃ちながら中央宙域に近づいていく。
漆黒の虚空と其処に浮かんでは光の花と共に消えていく赤い格子。それらを複雑なマニューバで潜り抜ける白い流星。

航空機・宇宙戦闘機に迫る機動性で宇宙を翔ける高機動兵器だが、ファヒームは宇宙でのその特性を航空機よりも寧ろRBに近いと捉えている。
原理こそ違うものの機体の各部に付いた推進装置による柔軟な方向転換による機動力、無重力による立体的な軌道や計器に比重を置いた操縦等の点がそう連想させるのである。
目まぐるしく変わる状況の中、ファヒームはアカネから送られてくる進行ルート上の障害となる観測ビットの位置情報やノブヒデからの機体姿勢や周辺宙域での位置情報等をコンソールで受け取りつつ、必死に機体とその周辺のイメージを補正していく。

中央に近付くにつれて密度を増すレーザー光。徐々に近距離攻撃によるルート確保が厳しくなり、針の穴を通すような操縦が要求されていく。
ターゲットが射撃レンジに到達するまでに掛る予測到達時間は後5分。
激しい爆破による発光が間近で瞬く。
I=Dの装甲が光の加減で銀色に見える。
”4”
進行方向に対する面積を減らすように機体の姿勢を制御する
”3”
絞り込まれる赤い格子。細い細い到達ルートを確保する為に射撃を続ける銃口。
”2”
虚空を彩る無数の光球と赤い光条の乱舞の中に垣間見える緑の光点。
”1”
緑の光点をターゲットサイトに捉える。
”0”
サイトの色が変わると共にトリガーを絞り、銃口が火を噴く。
光条が緑の光点を貫き、光球に変える。
「よし!ターゲット撃破。ここまま一気に脱出するぞ。」
ターゲットであった観測ビットが存在していた事で生じていた死角にそのまま突っ込む。
上昇し続けてきた速度は遂にトップスピードに到達する。
密から疎へ
観測ビットのレーザーが再び包囲網を形作る前に密集地帯を抜けだす。
コクピット内に安堵の空気が流れる。

突然、警告を告げるシグナルが鳴り響く。
「ちっ、あと少しなのに。ファヒームさん、進路上にレーザーが!直撃ルートのド真ん中だ。」
「慌てるな。メインブースターを一旦停止させて、姿勢変更後に再点火する。少々強引な手を使うが2人とも勘弁してくれよ。」
「りょーかい。」「分かりました。」
ブースターを停止させると共にわざと機体の姿勢を崩し重心をずらしながら、補助スラスターを吹かして不整回転を無理やり引き起こす。
急激なGで座席に抑え込まれ、耐Gスーツが悲鳴を上げる。
重力が存在しない中での高速回転で方向を見失わないようにコンソールに表示される機体方向を示すアイコンと自身が把握している機体周辺のイメージを必死にシンクロさせる。
額に浮かんだ汗が球となって宙に舞う。
機体の向きが狙った方向を指した所でブースターを再点火、同時に姿勢制御を回復させて不整回転を大急ぎで止める。
球となった汗がコクピット内の壁面に当たってはじける。
再び急激な加速によるGが機体とパイロット達にかかる。

/*/

少し離れた場所に漂う観測ビットの監視カメラ越しにテスト機の動向を見守っていたオペレーターの目にはそれはあっと言う間の出来事であった。
テスト機が直撃ルートに入ったと同時にブースターが停止し、機体がバランスを崩したかと思うと反転。再点火。
一直線に描かれていた軌跡は鋭角で折れ曲がり、V字を描いて安全宙域に駆け抜けていく。
思わず前のめりになっていたオペレーターは我に返って座席に深く腰を下ろす。
試験が終わり、虚空に散らばっていた光点と赤い観測レーザーが次々と消えていく。観測ビットが役目を終えて、機能を停止させているのである。
漆黒に戻る虚空の中を飛び続ける一筋の流れ星。
暫くすると、そこに眩い光が差し込む。
地球の影に隠れていた太陽が顔を覗かせていた。
太陽光を浴びて浮かび上がる青と白のマーブル模様が映える地球をバックに銀色の輝きを纏う機体と真っ直ぐに伸びるその軌道は銀槍のように見えた。

/*/

○一先ずの結び

「最終試験、無事終了したみたいだよ。」と受話器を置きながら守上摂政。
「それは良かった。これで漸くこの機体にも正式名称が付けれるってもんですよ。」と機体を見上げる。
「それで機体名は決まったの?」
「ええ、”ラグドール”にしました。」
「なかなか良い名前だね。これで長かったプロジェクトも終了っと。やれやれ」
カツカツカツ。バターン。
「ああ、守上摂政、ここに居たんですか。」
「あれ?どうしたの乃亜さん。そんなに慌てて」
「開発スタッフの皆さんが次期主力機の開発で得た各種ノウハウの共有化を次期共和国主力機開発プロジェクトの一環として引き続き行いたいと交渉に来てるんですよ。」
「・・・まだまだ続きそうですねえ。」
「そ、そのようね(涙)」

END


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